トランプ米大統領は数カ月にわたり、ロシアに対して新たな制裁を求める声に抵抗してきた。プーチン大統領と取引して戦争を終わらせることができると信じ、数週間以内にブダペストで首脳会談を行う計画まで立てた。

だが今週、事態は急展開した。トランプ氏は首脳会談の計画を撤回しただけでなく、2期目に入って初となる対ロシア制裁を発表した。「その時が来た」とトランプ氏は述べた。

この突然の方針転換には、長年の対ロシア強硬派で、かつてプーチン氏を「悪党」と呼んだルビオ国務長官による評価が寄与した。事情に詳しい米国と欧州の当局者によると、ロシアは実質的に姿勢を変えていないとルビオ氏は判断した。

内部での協議について話しているとして匿名を要請した当局者によると、ルビオ氏はロシアのラブロフ外相との電話会談で、ロシアが停戦協議を引き延ばし、戦争を継続しようというたくらみが明らかになったため、同外相との直接会談を取りやめた。

トランプ政権の対ロシア政策の展開は、ルビオ氏が国務長官としてだけではなく暫定的な大統領国家安全保障顧問として、政権中枢でいっそう広範な役割を担っていることを示唆する。同氏の姿勢は、トランプ氏の長年の友人でロシアに対して融和的なアプローチを主張するウィトコフ特使とは対照的だ。

ホワイトハウスのケリー報道官は、ルビオ氏の役割についてのこうした見方に反論した。

「トランプ大統領こそが常に外交政策を主導しており、ルビオ国務長官やウィトコフ特使ら国家安全保障の担当者は大統領の米国第一主義の下、団結したチームとして大統領の政策を遂行している」と説明した。

主導

トランプ氏が最も信頼する側近の一人であるウィトコフ氏がロシア問題やその他全般で、信任や影響力を失ったという兆候はない。同氏は今週、中東各地を歴訪し、トランプ氏が仲介したパレスチナ自治区ガザを巡るぜい弱な停戦を監督した。

それでも、8月にアラスカで開かれた米露首脳会談の準備としてウィトコフ氏がプーチン氏らロシア高官と行った協議が混乱を生み、実際には履行する意思のない譲歩の用意がロシアにあるとの誤解を招いたと、当局者の一部は指摘した。

これに対しケリー報道官は、そのような事実はないと否定。ウィトコフ氏は「全ての関係者に対して明確」で、同氏とトランプ氏は「あらゆる要因を完全かつ正確に理解」した上で、平和に向けて取り組んでいると述べた。

当局者によると、アラスカではプーチン氏がウクライナの領土について強く主張したため緊迫した会合となり、いら立ったトランプ氏が途中で退席しかけたという。このため今回は、ルビオ氏が事前準備を主導した。

記者会見するウィトコフ特使(中央)とバンス副大統領(左)、クシュナー大統領顧問(右)(21日、イスラエルのキルヤット・ガト)

米国務省は以前、ルビオ氏とラブロフ氏の電話会談を生産的だったと評価していた。同省のピゴット報道官は、ルビオ氏が対ロシア政策の転換に果たした役割について、「トランプ大統領のリーダーシップの下、チーム全体が完全に団結している」と述べ、別の事実を示唆する人々は間違っていると主張。

「有害な勢力が、根拠のない嘘を通じて自分にとって都合の良い話を進めようとしている。トランプ大統領とそのチームは、平和の追求において誰もが不可能だと思っていた成果をすでに達成した。それはウィトコフ特使による前例のない成功が大きく寄与している」と続けた。

プーチン氏との1回目の会談が厳しい内容だったにもかかわらず、トランプ氏は先週、長時間にわたった同氏との電話会談の後で、2回目の会談に合意した。米国はイスラエルとハマスの停戦を実現させた外交の勢いを生かしたい考えだった。

だが、複数の当局者によると、ロシアは最近、ウクライナとの和平条件の概略を示した計画書を米国に送付してきたが、内容はウクライナにさらなる領土放棄を求めるなど、従来の主張を繰り返すものだった。

米外交問題評議会(CFR)のリアナ・フィックス上級研究員は「アラスカでの会談を経て、米国はロシア側に柔軟性が全くないことを悟った。今回は会談前にその現実を理解できた点で、一歩前進だ」と語った。

混乱

一方、ロシア側でも混乱が生じていた。

ロシア大統領府の意向に詳しい関係者によると、先週の米露電話会談後、トランプ氏がロシアの小さな領土的譲歩と引き換えに、ウクライナがドンバス地方の残る支配地域を放棄するというロシアの要求を受け入れたと、ロシアの当局者らは確信した。

しかしその翌日、トランプ氏はウクライナのゼレンスキー大統領との会談後、現在の戦線に沿った停戦を支持するとあらためて表明した。これはアラスカ会談前にモスクワが拒否していた案で、ラブロフ氏はルビオ氏との20日の電話会談でこの相違を強調していたと、関係者は明らかにした。

この時点までに、次回首脳会談に向けた準備は既に頓挫しつつあった。

今年2月にサウジアラビアでトランプ政権とロシアの高官が初めて直接会談した際にも、ルビオ氏はウィトコフ氏と並んで出席していたが、今回はより直接的に関与している。ウィトコフ氏主導で米国がロシアの立場に近づき過ぎ、ロシアの要求を受け入れるようウクライナに圧力をかける可能性を懸念していた欧州にとっては安心できると、欧州の当局者が語った。

関係者によると、先週のトランプ氏とゼレンスキー氏との会談でも、ウィトコフ氏は再びプーチン氏が要求するドンバス地方の割譲に同意するよう、ゼレンスキー氏に迫った。

だが、トランプ政権は22日、ロシア石油大手のロスネフチとルクオイルに制裁を科すと発表した。

ルビオ氏は、直接会談を含むロシアとの対話の余地は残している。

イスラエルおよびアジア歴訪に出発する前にワシントン郊外のアンドルーズ統合基地でルビオ氏は22日夜、記者団に対し、「平和を実現する機会があるのなら、われわれは常に対話に関心を持つ」と述べた。

原題:Rubio’s Sizing Up of Russian Spin Spurred US Shift On Putin(抜粋)

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