日本も欧米のように国家分断となるリスクも

外国人労働者の取り扱いについては各国とも苦労しており、全体的に、新たに入国する人材については、自国に適応できる人材に特化する、既に自国にいる人材については自国に円滑に溶け込めるようにするという方向性で話が進んでいる。つまり、自国にはコントロール可能な範囲でしか受け入れないという形である。

一方で、日本では、人手不足が深刻化するなか、なし崩し的に広がってきているという現状がある。こうした状況は、日本にとっても、外国人にとっても不幸である。両者が安心して生活を送るためには、まずは体制整備が必要であり、それが未整備なままで進めることは、欧米のように国家分断となるリスクがあることは十分留意すべきである。拙速となることなく、十分に制度的な対応を行いながら、丁寧に進めるべき話である。

移民問題でよく指摘される警句がある。スイスの作家のマックス・フリッシュの「我々は労働力を呼んだが、やって来たのは人間だった」である。人々は低賃金かつ手頃な労働力を期待して外国から人々を招く。しかしながら、彼らは人間である。日本に適合できるかは、その人の個性のほか、日本の態勢によるところも大きい。海外から来る労働者は「人間」であることを考えて、この問題を考えなければならない。

(※情報提供、記事執筆:日本総合研究所 調査部 調査部長/チーフエコノミスト 石川智久、調査部 研究員 後藤俊平)

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