米軍が10日にベネズエラ沖で実行した超大型原油タンカーの拿捕(だほ)は、トランプ政権による反米左派マドゥロ大統領への圧力強化が新たな段階に入ったことを示したに過ぎない。今回の作戦に詳しい複数の関係者が明らかにした。

米軍がヘリコプター「ブラックホーク」からロープを使って制裁対象のタンカー「スキッパー」の甲板に降下するという今回の作戦の目的は、マドゥロ政権の石油収入を断ち、権力を放棄させることだと関係者が述べた。

ホワイトハウスのレビット報道官は11日、記者団に対し「制裁対象の船舶が闇市場の石油を積んでそのまま航行するのを傍観するつもりはない。その収益は世界のならず者や非合法な政権による麻薬テロを助長するからだ」と述べた。

米財務省は原油タンカー6隻とマドゥロ大統領のいわゆる「麻薬のおい」を対象に制裁も科した。

事情に詳しい関係者によると、米国が他の制裁対象船も拿捕する可能性があるとして、マドゥロ氏の側近らが対応策を懸命に探っている。特に、ベネズエラ国営石油会社の幹部らは、仲介業者を通じて同国産原油の大半を購入している中国に、いかにして安全に輸出できるかを模索しているという。

今回の拿捕は原油市場を動揺させた。トランプ大統領がこの地域で大規模な米軍増強を命じたほか、麻薬密輸船とされる船舶への攻撃もあり、全面的な紛争への懸念が高まっていた。この一件はトランプ氏とルビオ米国務長官がマドゥロ氏を退陣に追い込むため、戦争に至らない範囲でどのような追加手段を行使できるかを垣間見せるものでもあった。

トランプ大統領は今週、マドゥロ政権について「そう長くはない」と発言。10日にタンカーの拿捕を確認する一方で、「他のことも起きている」と強調した。これは、最近示唆した地上攻撃を含む軍事行動が選択肢としてまだ残っていることを示したとみられる。

米国は数カ月にわたり、麻薬密輸船とされる船舶を攻撃し、法的根拠が疑われる作戦で80人以上を殺害したが、世論調査では全面戦争は米国内で政治的に不人気であることが示されている。

だが、マドゥロ政権が崩壊すれば、麻薬カルテルが招くオピオイド危機や中南米からの不法移民流入といった重要課題への対処につながる連鎖反応が期待できると、トランプ政権は主張している。

トランプ政権は本気

全てのタンカーを拿捕することは不可能かもしれない。ただ、米国は市場を揺るがすような制裁の執行を一度、あるいは数回行うだけでも、保険コストを跳ね上げ、ベネズエラ産原油の輸送で利益を得ることが極めて困難になる水準にすることができるかもしれない。

コンサルティング会社ラピダン・エナジー・グループは10日の顧客向けリポートで、米国による今週の動きは海運保険料を大きく押し上げ、ベネズエラの石油輸出の約30%を支える「影の船団」である制裁対象船の活動を抑止する可能性があると分析した。

第1次トランプ政権で国務次官補(西半球担当)を務めたキンバリー・ブライヤー氏は、「トランプ政権は本気だ。今後は米国の承認なしに海路でベネズエラを出発したり到着したりするものはほとんどなくなるだろう」と指摘。「今回のエスカレーションは意義あるものであり、制裁キャンペーンにおける論理的なステップだ。権力を維持するために必要な資金をマドゥロ政権から奪うことになる」と述べた。

原題:Tanker Seizure Just the Start as Trump Ups Pressure on Venezuela(抜粋)

--取材協力:Hadriana Lowenkron、Patricia Garip.

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