進めるべき政策について

日本は少子高齢化が続くなか、外国人労働者に期待する声も聞かれるようになっている。一方で、これまで外国人労働者が少なかったため、受け入れに対して躊躇する意見も根強い。欧米の経験をみても、必ずしも成功しているとは限らず、最近は国の分断の要因の一つになっている状況である。また、その際、欧米の事情が国内に周回遅れや誤って伝えられるほか、メディアなどでアドホックに取り上げられることがあるが、海外の最新事情を正しく見極めていく必要がある。

欧米の経験からは野放図に入れてしまえば国家が混乱するため、戦略的かつ選択的な受け入れをしている。また、移民二世問題などを考えれば、社会的統合政策の重要性も指摘できる。さらに、不法移民に対しては毅然とした対応をとる方向にある。その観点からは、日本に必要な施策として(1)外国人政策の司令塔の設置と総合的・戦略的な施策の立案、(2)日本就労に対する適合性・動機の高い人材の受け入れ、(3)統合政策の推進、(4)自国民に納得感のある不法移民への対応、などが重要である。

(1) 外国人政策の司令塔の設置と総合的・戦略的な施策の立案

これまで、日本には外国人労働者を管理する省庁はあっても、外国人、外国人労働者に係る施策を総合的、戦略的に立案する司令塔機能を担い、一元的な行政を行う部署はなかった。このため、様々な問題に対して、対症療法的な対応を続けている状況である。早急に、例えば、内閣府等に横ぐし的な調整組織を置くといった、戦略的に政策を立案、実施できる行政組織を手当てし、適正な管理を行える態勢を整備する必要がある。

そして、司令塔を設置しても、立法的な対応が無ければ効果は発揮できないため、外国人政策について基本理念・基本法を制定する必要がある。

(2) 日本就労に対する適合性・動機の高い人材の受け入れ

欧米の移民政策は、近年、高技能者に限定する方向に変わってきている。日本においても、外国人労働者受け入れは、労働力不足への対応であることを考えると、前述の世界銀行の区分でいえば、適合性と動機が高い人材、言い換えれば、日本社会に貢献を行える能力を持ちながら、意欲の高い労働者を優先して受け入れ、また、国内で育成することが、日本だけでなく、外国人労働者にとっても望ましい。

その観点では、特定技能よりも高度な技術を持つ特定技能2号に合格する労働者はまさにそうした人材であり、長期滞在や永住に値する人材である。特定技能 1 号から 2 号へ橋渡しをする教育方法等を整備すべきである。

逆に適合性、動機の低い人材の受け入れを回避し、あるいは帰国を促すためには、現行の外国人受け入れ区分や基準を明確化していく必要がある。具体的には資格要件を適宜見直すほか、現在政府が十分に把握できていない特定活動についてもきちんと対応を進める必要がある。

また、日本の成長とイノベーションを促進していくうえで高度人材の確保は欠かせない。国際的に人材獲得競争が激化している中で、外国人の高度人材を日本に呼び込むための施策を強化する必要がある。国際的な人材誘致を強化するため、在留条件、永住条件や環境を改善していくとともに、日本の魅力をより積極的に発信していく必要がある。なお、高度人材の誘致、活用に際しては、経済安全保障の観点から、機微な情報を扱う分野ではセキュリティ・クリアランス制度を適用すべきことは当然である。

一方で、頭脳流出も大きな問題である。外国人材だけでなく、日本の優秀な人材についても待遇改善を図り、国外流出を防ぐことが重要である。

(3)社会的統合政策の推進

既に日本に居住している外国人がうまく日本社会に溶け込めるようにしていくことも重要な視点である。その際、重要なポイントが日本語の習得である。欧州各国においても、移民に対する自国語の教育が統合政策の柱になっている。意思疎通の円滑化、技能向上の促進という観点から、外国人の日本語習得を促していくことが極めて重要である。しかし、実際には、日本語学校卒業生の半分以上が専門学校等で授業を受けるために必要な日本語検定 N1・N2に合格せずに専門学校等に進学しているとの指摘もある。欧州では現地語教育にかなり力を入れているが、こうした姿勢も学ぶところが多い。

2024 年 4 月から日本語教育機関認定法が施行されているが、そのもとで、日本語教育機関、教育者の質の向上を着実に進めていくことが求められる。また、移民二世、三世の社会統合にも目配りした対応が重要であり、とりわけ、語学教育の強化などを通じて日本社会にうまく溶け込める環境を整備していく必要がある。

(4)自国民に納得感のある不法移民への対応

欧米の状況をみると、不法移民への反発が強い。そしてその不満が大きな政治的な混乱の要因の一つとなっており、不法滞在者や不法就労者については、厳しい取り締まりが必要である。不法滞在者が家族などを持てば、一層問題が深刻化する。足元では、欧米では不法移民への対応を厳格化する方向にある。日本としても欧米の状況を見ながら適切な対応をとっていく必要がある。

また、不法移民への対応については、移民送り出し国との連携が欠かせない。特定技能における二国間協締結国を増やしていくほか、他の形態についても二国間協定を締結していく必要もある。