1|制度の導入目的と経営戦略上の位置づけ

(1) 制度の導入目的および (2) 経営戦略上の位置づけ
企業がジョブ型人事を導入する目的は様々だが、ひとことで言うと、環境の変化への適応である。グローバル化、DXの推進、業績の悪化、合併、退職者増加等の変化に、従前のメンバーシップ型の人事制度では立ち行かなくなったと言える。人材の最適配置と業務効率化や、従業員が自律的にキャリアを築き、変化に対応する能力を高めることが求められている。ジョブ型人事は、企業の戦略実行に必要な人材を育成し、迅速に適切な役割に配置するための枠組みを提供するとされる。

▼共通すること
1) グローバル化への対応
多くの企業は、グローバル市場での競争力強化を目指してジョブ型制度を導入した。国際市場での事業展開を背景に、柔軟な人材配置と職務ベースの評価・処遇が必要となっていた。例えば日立製作所等はグローバル事業拡大に伴い、従前の年功序列やメンバーシップ型の雇用制度では限界があると判断したことが背景にある。

2) 変化に対応できる組織の構築
デジタルトランスフォーメーション(DX)や技術革新等、事業環境の急速な変化に対応するため、従来の組織体制では硬直が課題となっていた。各社は変化に強い柔軟な組織を構築するため、ジョブ型を導入して社員の適切な配置や評価を行うことを目指す。富士通やKDDIは、特にこの観点から、DX推進のためにジョブ型制度を導入している。

3) 社員の自律的なキャリア形成支援
社員が自身のキャリアを主体的に描き、それに基づいたスキルアップを支援することが多くの企業での導入目的となっている。例えばアフラック生命保険や資生堂等は、従業員のキャリア自立を支援するための透明性のある評価と処遇を重視し、ジョブ型制度を導入している。

4) 経営戦略と人事戦略の連動
人事戦略は経営戦略とリンクすることが必要である。先に事業戦略を明確化し、それに対して必要な組織の設計、ポジションの定義を行い、現有人材を当てはめる。足りない場合はリ・スキリングや外部調達により、ギャップを解消する。

▼独自性のあること
1) 事業統合と事業転換への対応
レゾナック・ホールディングスは、昭和電工と日立化成の事業統合を景気に、事業構造を大きく転換する必要があったことで、この転換を支える柔軟な組織運営を目指してジョブ型制度へと移行した。

2) 若手の外資系転職対策
富士通は、2015年頃から、若手社員の外資系企業への転職が増加したことを契機とし、人材の吸引力やリテンションを強化し、外部労働市場で競争できる人事制度への転換を目指した。

3) 業績低迷等の危機からの脱却
過去に4期連続最終赤字を計上するといった業績低迷による危機感(ソニーグループ)や、品質問題を契機とするガバナンス改革の一環(三菱マテリアル)で、人事制度改革に取り組むことになり、ジョブ型制度の導入につながった。

▼まとめ
・大手企業はグローバル市場での競争力向上と、多様な人材を活用するためのジョブ型制度導入に動いている。多くの企業が、グローバル市場で適切な人材を迅速に配置し、事業成長を図ることを目指している。

・年功序列や職能資格制度が、組織の硬直化や人材の成長停滞を招いているという問題意識も、ジョブ型制度の導入動機として挙げられる。年齢や勤続年数に依存しない公平な評価を実現することで、社員のモチベーション向上やパフォーマンス向上が期待されている。

・社員が自律的にキャリアを形成し、自身のスキルを発揮できる環境作りも、ジョブ型制度の重要な目的となっている。企業で、社員のキャリア自律を支援する制度設計に力を入れている。

・ジョブ型制度は経営戦略と連動する形で導入されており、特にDXや新事業開発等の分野で、柔軟な組織運営と迅速な人材配置が求められている。