2|ジョブ型人事の骨格
(1) 導入範囲
ジョブ型人事制度の導入範囲は企業ごとに異なるが、一般的にはまず管理職や専門職を対象に適用が始まり、段階的に一般社員や他の部門へと拡大されるケースが多い。全社一斉に導入する企業もあるが、これは例外的である。また、導入範囲は企業の業種や業態によっても大きく影響を受ける。
▼共通する取り組み
1) 段階的導入の採用
多くの企業が、全社一斉導入ではなく、まず特定の部署や職種から段階的にジョブ型を導入する方式を採用している。特に、管理職や専門職に導入し、その後一般社員や他の部門へと広げていくことが一般的である。
▼独自性のある取り組み
1) 全社一斉導入
パナソニック コネクトのように、特定のタイミングで全社員に一斉にジョブ型人事制度を導入した企業もある。これは、新しい組織形態や事業戦略と連動して、迅速に対応を図るための措置といえる。
2) 部門ごとの異なる導入範囲
ソニーグループのように、グループ会社ごとの業務内容や事業戦略に応じて、導入範囲を調整するアプローチを採用している企業もある。これにより、部門ごとの必要性に応じた柔軟な適用が可能となっている。
3) 「一国二制度」的運用
三菱UFJ信託銀行は、ジョブ型とメンバーシップ型を併用する「一国二制度」を採用している。アクティブファンドマネージャー等、一部の職務にはジョブ型を導入し、その他は従来のメンバーシップ型を維持。職務に応じた柔軟な制度運用を行い、キャリア自律と競争力強化を両立させている。
▼まとめ
・全社一斉導入よりも、パイロットプロジェクトを経て段階的に導入を進める企業が多数である。これにより、制度の有効性や課題を事前に確認し、柔軟に対応することができる。
・企業の戦略や業務内容に応じて、導入範囲を調整することが効果的である。特に、専門職や管理職から始めるアプローチが一般的である。
・一部企業では全社一斉導入を行っているが、これは例外的なケースである。
(2) 等級制度
ここでいう等級とは、ジョブの等級である。企業内での職務や役割に応じた評価・処遇を行うための重要な仕組みである。従来の年功序列型の等級制度から、ジョブ型人事制度への移行が進む中で、各企業は職務に応じた等級を定めることで、社員のモチベーション向上と公平性の確保を目指している。これにより、社員は自らの役割や責任に基づいて評価されるため、キャリアの透明性が高まり、組織全体のパフォーマンス向上に寄与するとされている。
▼共通点
1) ジョブ型人事に基づく等級の明確化
多くの企業が、従来の年功序列的な等級制度から、ジョブに基づく等級制度に移行している。職務内容や役割に応じた等級を設定し、それに基づく給与体系を導入している。これにより、能力や経験に基づく公平な評価が行われるようになる。等級の個数は企業によって大きく幅がある。
2) 等級ごとの役割と責任の明示
等級ごとに明確な役割と責任を定め、社員が自らのキャリアパスを明確に意識できるようにする企業が増えている。これにより、キャリア開発の道筋が明示され、社員のモチベーション向上につながることを期待している。
3) 専門職等級の設置
KDDIでは、専門職に特化した等級制度を設け、特定のスキルを持つ社員に対してキャリアパスを提供している。これにより、管理職だけでなく、専門職としてのキャリアアップも可能としている。
4) グローバル等級制度の導入
三井化学は、グローバルに通用する等級制度を採用しており、海外拠点の社員とも統一された基準で評価を行っている。これにより、拠点間の平仄を取ることにで、グローバルな人材活用を促進している。
5) シニア社員への対応
ジョブ型人事の導入を機に役職定年の廃止や、定年後再雇用社員の等級を整備する等、シニア社員向け制度を拡充しているケースもある。
6) 職務記述書
これらの前提として、職務記述書(ジョブディスクリプション)において、職務の内容や要件を定義している。記載内容の粒度や、記載されるジョブの範囲は企業によって区々と考えられる。
▼独自性のある取り組み
1) 専門性の認定
ソニーグループでは、社員の専門性の認定では、専門性が異なる領域間でも統一的な判断ができるよう、技術を認定する委員会を設置している。
▼まとめ
・従来の年功序列的な等級制度から、ジョブに基づく等級制度への移行により、職務内容や役割に応じた等級を設定し、それに基づく給与体系を導入している。等級ごとに役割と責任が明確であり、キャリアパスを意識することにも寄与している。専門職についても整備がなされている。また、この前提として職務記述書を作成している。
・特にグローバル展開している企業では、海外拠点の社員とも一貫性のある評価制度を導入することで、国際的なキャリアパスを描くことが可能となり、グローバル人材の活用が進んでいる。
・ジョブ型人事制度の導入を機に、シニア社員向けに役職定年廃止や、再雇用制度の整備が進められ、年齢でなく職務による処遇することを徹底する企業もある。
(3) 報酬制度
ジョブ型人事制度における報酬制度は、職務に基づく報酬体系を主流とし、企業全体に透明性と公平性を確保することが共通の目的として掲げられている。多くの企業は、市場の報酬水準を基準に、職種ごとに適切な報酬水準を設定している。
▼共通する取り組み
1) 市場水準に基づく報酬設定
企業は市場の変動を反映し、柔軟に報酬を調整する。レゾナック・ホールディングスやパナソニック コネクト他、多くの企業で採り入れられている。
2) シングルレートとレンジ給
同一等級のジョブにおいてはすべて同一の給与水準とするケースもあれば、一定のレンジを定めるケースもある。前者は年功的要素を排し、シンプルかつ厳格な運営に繋がり、後者は従前の職能的要素が残る一方で柔軟な運営に資するものである。
3) 成果に基づく報酬
職務の責任や成果に応じてボーナスのみならず、基本給の昇降を決定する企業もある。欧米のジョブ型においては、ジョブによって基本給は固定されており、成果に関してはボーナスや昇進等の材料になるのと異なる運用と言える。
▼独自性のある取り組み
1) 高度専門職への特別対応
富士通やパナソニック コネクトでは、AIやデータサイエンス等高度専門分野の人材に対して、通常の報酬体系とは異なる特別な処遇が行われている。
2) トータルリワードの導入
アフラック生命保険は、報酬に加え、福利厚生やキャリア支援等も含めた「トータルリワード」という報酬体系を導入し、社員の多面的なニーズに応えている。
▼まとめ
・市場水準をベースに当該ジョブの報酬水準を設定することが、一般的である。
・欧米のジョブ型と異なり、成果が基本給の算定に繋がるといった、成果主義的要素や職能・年功序列的要素が併存している企業もある。
・高度専門職や特定のスキルを持つ人材に対しては、個別の対応を行い、専門分野の競争力を強化する企業が増えている。
・報酬だけでなく福利厚生やキャリア支援等多様な報酬要素を提供する企業もあり、トータルリワードの考え方を取る企業もある。
(4) 評価制度
ジョブ型人事における評価は、職務ごとの重要度や難易度に基づいて評価を行うのが基本である。これにより、従来の年功序列や職能に代わり客観的、公平な評価が行われ、組織全体のモチベーション向上や効率的な人材運用が期待できるとされる。ただし、先に述べたとおり、成果主義的要素が織り込まれているケースも散見される。
▼共通する取り組み
1) 目標達成度と行動評価の組み合わせ
多くの企業では、業績の達成度と行動評価を組み合わせた総合的な評価が行われており、短期的な成果だけでなく長期的な成長も考慮している。
2) 透明性の確保
評価基準の公開やフィードバックの強化を通じて、公平で透明性のある評価制度を目指している企業がある。
3) グローバルな評価制度の導入
多くの企業はグローバル基準での評価制度を導入し、国内外で一貫性のある評価を実施している。これにより、国や地域に依存しない公平な評価基準が確立されている。
▼独自性のある取り組み
企業ごとに独自の評価制度が導入され、社員の自己挑戦やフィードバックを重視した施策が見られる。
1) 昇任チャレンジ制度
ライオンでは、社員が上位職に挑戦できる「昇任チャレンジ制度」を導入し、自己成長を促す制度を独自に展開している。
2) 目標の社内公開
社員が設定した目標を部門内で公開することにより、目標の適切さを担保し、公正な評価を目指しつつ、部門内の他の社員のモチベーション向上を期待する取り組みを行うケースがある。
3) ノーレイティング評価制度
パナソニック コネクト等では、評価記号を廃止し、定量的なフィードバックではなく対話を重視する「ノーレイティング」制度を導入することで、社員の課題や成長へのきめ細かな支援を図っている。
 
▼まとめ
・評価基準の公開とフィードバックの充実により、透明性の高い評価制度が普及しつつあり、社員の納得感を向上させている。
・成果に応じた評価制度をさらに強化し、短期的な業績だけでなく、長期的な成長や責任を重視した報酬システムへ移行しているケースもある。

 
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
    