8月28日に、内閣官房が「ジョブ型人事指針」を公表した。6月に公表された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2024年改訂版」には、夏に当指針を公表すると記載されており、これに沿ったものになっている。
ジョブ型人事制度は、グローバル競争力の強化やデジタルトランスフォーメーション(DX)推進等、現代の企業が直面する課題に対処するために導入されている。多くの企業が自社の戦略に応じた導入方法を採用しているが、その制度設計や導入範囲は企業ごとに特徴がある。本レポートでは、ジョブ型人事制度の基本(全体の枠組みや設計)、目的(導入の狙いと背景)について、企業事例を紹介し、ジョブ型人事の基本的な理解を提供する。
ジョブ型人事指針の内容
まず、指針とは何かを確認する。法令用語辞典によると、「『指針』とは、ある具体的な計画を策定し、あるいは対策を実施する等行政目的を達成しようとする場合において、準拠すべきよりどころまたは準拠すべき基本的な方向、方法を行政庁が示すこと」とされている。このジョブ型人事指針は、政府が目的とする日本企業のジョブ型人事導入の推進のためのよりどころ、ということといえる。だが、実態は、政府のヒアリングに応じた20社の事例集というものである。ジョブ型人事指針(以下、「指針」)においては、一口に日本企業といっても、個々の企業のおかれた状況やその経緯は千差万別であることから、自社のスタイルに合致する導入方法を検討できるように、20社のケースを挙げているものであり、何か統一された方法が示されているものではない。
20社は三位一体労働市場改革分科会に出席し、ヒアリングに対して極めて詳細に回答している。

ジョブ型人事指針の構成は下記のとおりである。

本レポートでは、ジョブ型人事制度の全体的な概念や導入の背景・目的に焦点を当て、基本的な理解を提供する。具体的には、ジョブ型人事指針の第1章から第3章の内容を通じて、各企業の事例をもとに、制度導入の背景や等級制度・報酬制度・評価制度といったジョブ型人事指針のエッセンスを抽出する。企業によってその取り組み方や導入経緯は区々であるが、共通する取り組みや独自性のある取り組みについて触れる。「4.人事部と各部署の権限分掌の内容」以降については、「ジョブ型人事指針を読む(下)」で取り扱うこととする。以下、内容に触れていく。