新型コロナによる死亡を除去した場合の健康寿命計算の試み

厚生労働省からは、簡易生命表とあわせて、特定の死因について、その死因を除去した場合の平均余命の延びと、死因別死亡確率が公表されている。これによると、新型コロナによる死亡を除去すれば、65歳時点の余命は男性が0.22年、女性が0.18年、延伸すると推計されている。これらの情報から、粗い計算とはなるが、新型コロナによる死亡を除去した生命表の再現を試みたうえで*4、新型コロナによる死亡を除去した2022年の65歳時点での健康余命を試算した。

その結果、新型コロナによる死亡を除去すると、65歳時点の健康余命は、男性が14.48年、女性が16.95年と算出され、新型コロナによる死亡を含んだ結果よりもそれぞれ0.13年、0.09年延伸し、2019年と比べても、65歳時点の健康余命は男女とも延伸していた。

厚生労働省による特定の死因を除去した平均余命の延びや、その死因による死亡確率は、一定の仮定に基づく推計*5ではあるが、新型コロナの寿命に対する影響が一時的なものだと考えれば、健康余命は引き続き男女とも延伸傾向にあると考えても良さそうだ。

*4 新型コロナによる死亡を除去した時の余命の延びから、新型コロナによる死亡を除去した時の各年齢以上の定常人口と各年齢における生存数の関係を算出し、それと整合的な各年齢の死亡率を逆算した。このようにして得た各年齢の死亡率を使って、新型コロナによる死亡確率を算出し、公表資料と大きな乖離がないことを確認した。

*5 厚生労働省「令和4年簡易生命表」簡易生命表の概要・作成方法

以上のとおり、2022年の65歳時点の健康余命は、2019年と比べて、健康状態は改善していたが、新型コロナの影響等による余命の短縮により、健康状態の改善が大きかった女性では健康余命は微増したが、男性は健康余命も短縮していた。余命と不健康余命の差である不健康期間は短縮していた。しかし、不健康期間が短縮した要因は、新型コロナにより余命が短縮したことにあると考えられることから、今回の不健康期間の短縮は、望ましい状態であるとは言えない。

新型コロナによる死亡を除去した結果、2019年と比べて男女とも健康寿命は延伸した。新型コロナによる死亡の影響が一時的だと考えれば、健康余命は引き続き延伸傾向にあると考えても良さそうだ。

自治体等では、健康行動の促進や日常生活を充実させるために、健康寿命・余命を指標として利用している。しかし、2022年については、平均寿命・余命が短縮したことで、こういった取組みの成果が、健康寿命・余命の延伸からは見えにくかった可能性がある。3年後の健康寿命・余命の算出時には、コロナ禍に影響されることなく、寿命と健康寿命の延伸を期待したい。

(※情報提供、記事執筆:ニッセイ基礎研究所 主任研究員 村松容子)