ハリス氏再選なら経済は軟着陸
仮にハリス候補が当選した場合、米国経済は軟着陸を果たすと予想する。ハリス候補が掲げ る政策が実施される場合、米国の実質GDP成長率は 2025年に 1.8%、2026年には 2.0%と、 経済は潜在成長率並みで推移する見通しである。

経済見通しでは、公約に掲げられた低所得者層向けを中心とする支援策と、企業・富裕層へ の増税の影響を、ともに織り込んでいる。低所得者層向けの支援策は 2026年から開始されると仮定しており、2025年末に打ち切り予定の 「トランプ減税」が中低所得者層で延長されるほか、児童税額控除や養育費助成といった子育て世帯への支援策が実施される。「トランプ減税」 はトランプ前政権時代の2017年末に決定した「減税・雇用法」によるもので、ハリス候補は中低所得者層に限って延長する旨を表明している。
米国の超党派で構成する「責任ある連邦予算委員会」によると、ハリス候補が掲げた減税や 歳出拡大策は、今後10年間で財政支出を 7.3 兆ドル増加させると試算している。このうち家計向けの所得支援策は6兆ドル弱にのぼり、2026年の成長率を概ね 1.0%ポイント押し上げる見込みである。このうち、トランプ減税の延長による押し上げ効果は 0.5%ポイントに達し、減税打ち切りで景気が押し下げられる「財政の崖」が解消されるかたちである。一 方、企業や富裕層への増税として、①法人税率の引き上げ(21%から28%)、②キャピタルゲイン課税の強化、③高所得層への金融所得課税の強化を打ち出しており、これが2026 年の成長率を▲0.4%ほど押し下げる見通しである。

ハリス政権の下で、成長率は巡航速度で推移 し、インフレ圧力は高まらないと考えられる。コアインフレ率は2026年にかけて2.3%と中央銀行の目標値近くで推移すると予想する。インフレの収束で政策金利も引き下げられ、2025年には3.5%、2026年には3.25%と3%程度とみられる中立金利付近まで低下する見込みである。この結果、実質金利は2026年にかけて小幅ながら低下し、成長率を押し上げる要因になると予想する。


このような見通しは、民主党が議会の多数を占め、ハリス候補の公約が議会の承認を容易に 得ることを前提としている。ただし、民主党が上下いずれかで過半数を割る「ねじれ議会」となる場合、共和党の反対などで増税が実現しない可能性が高まる。増税なしで家計への分配策だけが実行される場合、景気が上振れてインフレ率が2026年に2%台後半へ高まる計算にな る。このようにハリス政策でも、議会情勢次第では景気が過熱し、インフレが進む可能性がある点には注意が必要である。
このほか、ハリス候補は、食品価格の統制、 住宅購入の補助、クリーンエネルギ―産業への支援、先端分野などへの税優遇といった政策を打ち出しているが、詳細な経済への影響が算定しがたいため、見通しには織り込んでいない。