「生きててよかった」 音が紡ぐ奇跡の瞬間
日常的にオルガンに触れることができるようになった松原さん。時間を見つけては想いのままに音を紡いでいました。
そんなある日、看護師から「病院のクリスマスコンサートで演奏してもらえないか」と思いがけない依頼が舞い込みます。「とても人前で演奏できるような状態ではない」と一度は戸惑ったものの、「クリスマスだから、松原さんに演奏を頼みたい」という真剣な眼差しに心を動かされ、演奏を引き受けました。
2018年12月、病院の正面玄関エントランスで行われたクリスマスコンサート。リハーサル中、ストレッチャーに横たわった年配の男性患者が、リードオルガンの音色に「まるで、ベルリンにでも来たかのようだ」「ああ、生きていてよかった」と声を絞り出したといいます。
その言葉に松原さん自身も「生きていてよかった」と心から感じた瞬間でした。彼女にとって、病棟に運び込まれたリードオルガンは単なる楽器ではなく、生きる希望そのものだったのです。
「リードオルガンは、同じ楽器であっても奏者によって全然違いますし、私にしか出せない音があります。自分の足で空気の送り方をコントロールして音を出すので、自分が呼吸するのと同じような感覚なんです」
