稲垣さんは、地元・神戸を襲った阪神淡路大震災後の行政の対応を克明に把握していた。

「まずは用地確保。神戸市は震災が起こったその日、1月17日から建設用地の選定にかかりました。7か月後の8月11日まで、204日で延べ2万9178戸を建設しました。それができたのは、神戸市が所有していた市有地が78%を占めていたから。使える土地があった」

公園に建てられた仮設住宅 神戸市東灘区(1996年の元日)

1996年の元日。阪神淡路大震災の約1年後に稲垣さんが撮影した写真には、市の公園にプレハブの仮設住宅が立ち並ぶ様子が映っている。

「日本で初めて仮設住宅が注目されたのは30年前の阪神淡路大震災です。このときは30万人が避難生活を送り、うち5万人が仮設住宅の生活になった。それまで、こんな事態は想定されていなかった」

「まさか地震が来るとは、ということと、こんなに仮設住宅が必要になるんだということを誰も想像したことなかったんです」