熱中症で倒れた息子に「演技だ」

意識がもうろうとし倒れた剣太さんに対し、当時の顧問は、「それは演技だ」と言って、驚くべき対応をした。

▽学校集会で発言する工藤奈美さん(2009年)
「(顧問から)ビンタを10発ほどされたそうです」

▽剣太さんの父・工藤英士さん
「何のための部活なんですか、人を殺すための部活なんですか」

顧問から暴力まで受け、重度の熱中症(熱射病)で死亡した剣太さん。両親は、顧問などとの8年近い裁判を経て、顧問個人の賠償責任を認める異例の判決を勝ち取った。

両親は顧問の賠償責任を認める判決を勝ち取るまで闘った

▽工藤奈美さん
「傷だらけになった夫婦なんですけど、傷だらけになった自分たちだから、私たちはどれだけ矢を受けてもいいから、これ以上後ろにこの矢を通さないように(再発させない)という気持ちで夫婦でやってきましたね」

「今回(Aさんの自死事案を)皆さんに知ってもらうために、息子さんに何が起きたのかをまとめて、って言ったんです。すぐやってくれたんですけど、この作業をするのは本当に苦しい。息子さんに何が起きたのか、どういう辛いことがあったのかは、通常、ふたをしていないと生活ができないんですよ」

▽生徒Aさんの母・みかさん
「文字に起こすとか言葉にするというのが辛いですよね。何年経ってもこれは拭えないのかな…でも工藤さんと会っていろんなことを得て、今ここにいる」

「息子のために今が頑張りどき」

「言葉にするのは辛い」が…伝えられる人になりたい、と語るみかさん


「沖縄ではこういったことは2度と起こってはいけないと思っていて、それをうまく伝えられるような人になりたい」

2度と起こってはいけないと「伝えていきたい」

みかさんは沖縄に戻ると、夫婦を支援してきた保護者有志の会のメンバーに、神戸で感じた思いを報告した。

▽生徒Aさんの母・みかさん
「誰かしらが気づいておかしいんじゃないって言ってくれたら、うちの子は命を絶たなかったのかなって、やっぱり思います」

支える「保護者有志」に心境を語るみかさん(2023年)


「(伝える役割を)やっていきたいって思うんですよ、(第三者委員の)報告書ができて、聞かないとか見ないとかじゃなくて、こういうことがあったんだよっていうのは知ってもらう、そこで皆さんの気持ちに何か変化が起これば。気づきが起こればいいって思うし、その気づきって絶対大切だと思う」

▽みかさんを支える「保護者有志の会」仲村晃さん
「強くなった」

「(何もなければ)強くならなくていいじゃん別に。でも強くならないと伝えられない。「一生背負っていく覚悟を感じるし、じゃあ(支援する)自分は何ができるのか、って思ったし」

息子の、声に出せなかった苦しみや思いを伝えていく。みかさんは、支えてくれる仲間と共に、自身の思いを伝えていく使命を感じていた。

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(シリーズ「我が子を亡くすということ」を第1回記事から全編読む)

◆◆個別の記事はこちら◆◆
【第1回】理不尽な部活指導で命を絶った我が子はなぜ「生徒A」になったのか…
【第2回】熱中症で倒れ「演技だ」とビンタ…「何のための部活か」他県の遺族と出会い感じた“伝える使命”
【第3回】部活動顧問から暴力を振るわれた末の死… 再発防止に取り組み続ける高校
【第4回】部活顧問が生徒に投げつけた「キモい、ウザい」…空手部主将の自死につながった不適切な指導を根絶するには
【第5回】母の決意「息子と同じ苦しみを、これ以上誰にもさせない」