そんな葛西さんを突き動かしたのは、災害を生き延びた者が抱く心の葛藤でした。

(葛西大志朗さん)
「究極に自分には『生きろ』というメッセージが来たわけですよ。そのことで悩みましたもの。何で俺は生かされたんだろう。何のために俺は生かされたんだって悩んだから。1か月後に音楽を立ち上げたのはそこにあるわけです。これが自分の役割なんだなと思ったわけ」

友結バンドは元々、仮設住宅の子どもたちを元気づけようと2012年に結成されました。
結成から13年、今は子どもから大人まで幅広い年代の人々の音楽を通じた憩いと交流の場へと姿を変えながら、活動が続いています。

(メンバーは)
「地域に根差した活動をしようというのがすごく伝わってきて、気楽に参加できるのがすごくいい団体だと思っています。大船渡に数少ないジャズバンドなので、いいバンドだと思います」

震災で働いていた電器店が被災して仕事を失った葛西さんは2011年5月、経験を活かして楽器修理店を開業しました。


当時、葛西さんのもとには津波で傷づいた数多くの楽器が持ち込まれました。
葛西さんは、そのほとんどを無償で修理しました。

(葛西さん)
「もうちょっと単価上げるなどしても誰も文句言わないと思うって言われてるの。でも俺とすればダメなんだよ。どうしても…。いろんな事情とか聞いてしまうと『まぁいいよいいよ』となってしまう」

(葛西さん)
「頑張れ頑張れ」

葛西さんがこのバンドに寄せる思いとはー。

(葛西さん)
「ここは純粋に楽器で演奏して楽しむところ、という感じだから楽器の指導といってもここではあまりしないです。ちょっとお前音悪いぞとか、そんなことは一切いわないから。音が汚かろうが音程外そうが。とにかくやればいいんだ」

震災で失われた子どもたちの笑顔を音楽で取り戻そうと決意して14年あまりー。

音楽の力を信じる葛西さんの思いは今も、そしてこれからも変わることはありません。