「人間じゃないのかな」って感じていたこともあった

 今回の意見交換会は、翼斗さんのこんな心に響く言葉で締めくくられました。

小島翼斗さん

「やっぱり、自分がしたようなつらい思いをする人が、ひとりでも少なくなるようにって。
 自分は、『同性愛者であることを異常なことだから言っちゃいけない、小さな世界で生きてなきゃいけない』と思っていたし、『人間じゃないのかな』って感じていたこともあるんだよね。
 子どもの頃や学生の頃に『男の人が好きってダメなんだ、だから、自分はダメなんだ』と考えていたけれど、そんな風に思ってほしくない。男が好きだろうが女が好きだろうが、 『好きになった人がいる、その事実だけで、そもそも、誰だって生きているだけで素敵!』と思えるような世界になってほしい。
そんな世界にしていこうってなったときに、メディアは大きな力を持っていると思うの」

 性的マイノリティの姿を発信することはこれまで、社会だけでなくLGBTコミュニティにも、そして当事者それぞれのこころにも大きな変化をもたらしてきました。

 あたし自身、カミングアウトをする前は、パレードの存在を様々な報道で目にするたびに「ずっと孤独だったけれど、もしかして、ゲイって自分だけじゃないのかもしれない」と、その内容に勇気づけられた記憶があります。今回のちかときみの特集も、きっとこれを目にして励まされ、生きていく力を得た人がいるはずです。

「さっぽろレインボープライド2021」

 そして、そうした発信の積み重ねの上に、「LGBT」「SOGI」といった言葉が広まりつつある今の社会が成り立っています。あたしが幼かった頃――まだ「ゲイ」や「レズビアン」といった語すら目立って取り上げられることがなく、世界に自分みたいな人間はひとりしかいないと思っていた頃――からは、考えることすらできなかった、この社会が。

 メディアという力は、単に無反省に働くと、暴力にもなりえます。ですが「何が適切なのか」を常に問い続けることで、世界を変えていく確かな手段として、差別という霧を晴らす一手となりうるのです。

 当事者にとって先を照らす灯火となるような報道がこれからもなされ、それによって世界がさらに開かれたものになっていくよう、あたしはひとりの当事者としてこれからも願い続けます。(“LGBT”再考 全2回 前編を読む)
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満島てる子
オープンリーゲイの女装子。北海道大学文学研究科修了後、「7丁目のパウダールーム」の店長に。LGBTパレードを主催する「さっぽろレインボープライド」の実行委員を兼任。2021年7月よりWEBマガジン「Sitakke」にて読者参加型のお悩み相談コラム【てる子のお悩み相談ルーム】を連載中。

編集:Sitakke編集部IKU