地震などの災害で断水になると、大きな影響を受けるのが「口腔ケア」。過去の災害では長期間入れ歯をつけっぱなしの高齢者もいたという。水が限られる中での、お口のケアの仕方について専門家に聞いた。

断水で入れ歯を1か月つけっぱなしも・・・水がなくても口の中のふき取りを

石川県で最大震度7を観測した能登半島地震の発生からまもなく4週間が経とうとしている。被災地では懸命な支援活動が続けられているが、未だに広い範囲で断水が続き、飲み水をはじめ生活用水の確保が大きな問題となっている。

北海道で歯科医師をしている池田昭さんは、被災地の様子に危機感をもっている。池田さんは、東日本大震災をきっかけに、災害時に起きるであろう口の中の衛生や対策についてSNSやYouTubeで発信を続けてきた。特に入れ歯を使っている方のことを気にかけているという。

ーー過去の震災では断水などでどのようなことがあったのでしょうか?

コンフォート入れ歯クリニック 池田昭理事長
「東日本大震災では、水が使えず、なかなか入れ歯を洗うことができなかったといいます。その後、水が使えるようになっても、避難所の水場は共用なので、入れ歯を外して洗うことをためらい、震災後、1か月経ってもずっとつけっぱなしという人もいて、口内環境が悪くなってしまう人が多くいたそうです」

ーー口内環境が悪くなるとどんな懸念がありますか?

池田昭理事長
「口の中で繁殖した細菌が誤って肺に入ってしまうことで起こる『誤嚥性肺炎』による死者が増えたと考えられています。とても心配しています」

ーー今回の地震でも、長期的な断水の可能性が指摘されています。水が不足した環境のなかでも、口内を衛生的に保つ方法はありますか?

池田昭理事長
「歯磨きができない状況であれば、入れ歯の人も、そうではない人も、アルコールフリーのウェットティッシュや、水で濡らしたティッシュやハンカチで歯や口内、入れ歯を拭ってください。口腔内には常時数億もの菌がいて、食事をする、しないに関わらず、12時間で4096倍に増殖するといいますので、出来る限り、心がけていただきたいです」

ーーすごい菌の数ですね…。

池田昭理事長
「加えて、口の中が乾かないように気をつけてください。唾液には細菌の増殖を抑える抗菌作用や、口腔粘膜を保護するなど、口内の環境を整える役割があります。せっかく清潔にしていても、口の中が乾いていると、また細菌が繁殖するという悪循環に陥ってしまいます。

地域のつながりが薄い避難所では、周囲に気を使って会話をする機会も減ってしまいがちです。また、トイレの回数を減らすために水分を我慢してしまうこともあるかもしれません。そうなるとますます口腔内の乾燥が進んでしまうんです」

唾液の分泌には、食事や会話などの刺激により分泌される刺激唾液があるという。加えて、唾液の量を増やすために、他にもできることがあるという。