相澤の復調プロセスと中村の復活への思い
相澤は今年9月の日体大長距離競技会5000m(13分39秒25)が、1年3カ月ぶりのレースだった。11月3日の九州実業団駅伝(3区区間2位)を経て、12月10日の日本選手権10000mで3位、27分13秒04と前日本記録を上回るスピードで走った。
そして短い間隔で連戦となるニューイヤー駅伝でも、疲れは多少あっても走れる感覚がある。その背景にはリハビリトレーニングで、「体幹強化や体の機能を改善する」ためのメニューをしっかりと行ったことがあった。
走るメニューではスピードと持久力のバランスを見直した。東京五輪後は世界とのスピードの差を埋めるため、距離の短いメニューでスピードを上げることに意欲的に取り組んだ。だが「優勝しましたが昨年の日本選手権も感覚が良くなかった」という。
「今年の夏場はマラソン練習しかやりませんでした。日体大前も(1000m)2分50秒より速いペースではやっていません。僕が現時点で無理してスピードを出す練習をするより、確実な練習をしっかり積んでいった方がプラスになると思いました。ずっとやらないわけではなく、(スピードの高いメニューを)ポイントというか、やるべき時期にやれば、タイムは出る感覚がありました」
東京五輪で世界のレベルに目を奪われてしまったが、自分を見つめ直した結果、大学時代からやってきた方向に戻す形になった。そのスタイルでトラックで一定の成果を得て、駅伝でも快走できれば自信が大きくなる。「10000mの集大成」と位置付けているパリ五輪に向かっていける。
中村もパリ五輪をあきらめていない。MGCファイナルチャレンジ(2月の大阪マラソンと3月の東京マラソン)で2時間05分50秒の設定記録を破りに行く。東京五輪の失敗(62位)をなんとか払拭したい。
自身の印象に残っているレースとして「東京五輪」を、ニューイヤー駅伝公式ガイドに掲載している。その思いを聞いた。
「1つはずっと目標としてきたオリンピックに、出場することがかなったからです。もう1つはあれだけ悔しい結果に終わったからこそ、もう一度あのような舞台で戦いたい、もっと上のレベルでやっていきたい、という思いを強くしたからです」
東京五輪を一緒に戦った仲間の走りを、少し特別な思いで見るのは自身の思いの強さからだろう。そのためには早く結果を残したいが、焦っていいことは何もない。故障が続いた中村は、「筋力面が落ちて、フォームが小さくなっていた」ことから、土台から作り直した。そして故障が少なくなり、2年ぶりにニューイヤー駅伝メンバー入りした。
「いきなりスピードを上げるのでなく、ジョグや距離走、クロスカントリーを丁寧に行ってきました。まだ100%ではありませんが、この先を見据えると、ニューイヤー駅伝出場は明るい材料です。正直、絶対にパリだ、という思いでやるとまたマイナス面が生じるかもしれません。25年の世界陸上東京でもう一度代表入りして、そこで勝負したい気持ちが大きいですね。しかし今回の駅伝に向けては、久しぶりにしっかり準備ができたので、チャンスがあれば(優勝を)しっかりつかみ取りたい」
中村も相澤も、栄光の後に低迷が待っていた。そこからはい上がる過程に駅伝という目標があった。自身の完全復活へのステップとして、ニューイヤー駅伝を走る。東京五輪を自身にも、日本の長距離界にも、意味があったと言えるようにするために。
(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)
※写真は相澤晃選手(左)、中村匠吾選手(右)