歴代沖縄県知事 抗いの歴史
沖縄が地方自治のありようを最初に問うたのは、28年前に遡る。
1995年、当時の大田昌秀沖縄県知事は民有地をアメリカ軍用地として強制使用するための手続きである代理署名を拒否し、村山総理に訴えられた。
地方自治体は国の下請け機関とされ、国から委任された事務を拒否するのは不可能といわれた時代に風穴を開けたと評された。それは、地方分権の動きを牽引することになったという。
仲地名誉教授
「(大田元知事は)人権、平等、地方自治実現の意識を大変強く持っておられた。沖縄は自己決定権ができない歴史を持ってるものですから、自治の主張というのも知事の中に強い信念としてあったということです」
そして、大田氏は、最高裁でこう意見陳述した。

大田知事陳述(1996年7月)
「安保条約が日本にとって重要だというのであれば、その責任と負担は全国民が引き受けるべきではないかと思っています。そうでなければ、それは差別ではないか、法の下の平等に反するではないかと県民の多くは主張しているのです。地方自治の本旨に照らして、沖縄の未来の可能性を切り拓くご判断をしてくださいますよう」

大田知事陳述後会見(1996年7月)
「差別的処遇を受けているというような方策をとっていただきたくないということ、基地問題の解決のありようは、日本国全体の将来の問題に結びつくんじゃないかと」
だが、最高裁は、その訴えを退けた。その後、大田氏は、民有地使用の手続きに応じることになる。抗議する反戦地主らにこう釈明した。
大田知事(1996年9月13日)
「ここは一歩下がって、政府と協力しながら、いまの産業の問題とか雇用の問題とか。総合的にやることによってしか基地問題の整理縮小はできないというのが、6年やって来て、そういう判断、認識を持たざるを得なくなってきている」
そう判断するに至った理由のひとつが、当時の橋本龍太郎総理の言葉にあった。

橋本龍太郎総理(1996年9月10日)
「今日まで沖縄県民が耐えて来られた苦しみと負担の大きさを思う時、私たちの努力が十分なものであったかについて、謙虚に省みるとともに、沖縄の痛みを国民全体で分かち合うことがいかに大切であるかを痛感しております」
政府は、基地の整理縮小推進などの努力に加え、沖縄政策協議会という対話の場の設置や、沖縄振興のための調整費50億円を提示したのだ。
大田県政で知事公室長などを務めた高山朝光さんは、大田氏の判断の背景をこう振り返る。

元沖縄県知事公室長 高山朝光さん
「大田知事が期待した本気度なんですよ。橋本総理は本気になってきた。(代理署名を)拒否されながら、全省庁を挙げて沖縄のために何ができるか、というのを各省庁に取り組ませた」
水面下であった政府側とのやりとりを明かす。
元沖縄県知事公室長 高山朝光さん
「裏でね、知事の思いをもう少し和らげる方法として、振興策なり、そういうことで何かないかと打診を受けた。しかし、知事の思いはそんなもんじゃありませんと。取引じゃありません。沖縄の問題を政府として実際に正面からこれに取り組むかどうかという、その姿勢が問われているんですと」
その後、対話を重ねたのが、当時の国と県の関係だった。
それを振り返る大田氏の言葉が残っている。

大田元知事(2016年6月取材)
「今考えますとね、日本政府に橋本総理や梶山官房長官のようにですね、沖縄問題について理解のある方々がいればね、少しは良くなるんですが、全くそれがないですね、残念ながら」
そう語ったのは、大田氏が亡くなる一年前のこと。そのころ、同じように国と法廷闘争に入っていたのが翁長雄志前知事である。

前任の仲井眞知事による辺野古埋め立て承認(2013年12月)を、翁長知事が取り消した(2015年10月)ことで、国は代執行によって承認の状態に戻そうと提訴した。

翁長知事(2015年11月)
「沖縄県民にとっては、銃剣とブルドーザーによる強制接収を思い起こさせるものであります。埋め立ての承認および取り消しの審査権限は沖縄県知事にあります。政府から私が適法に行った承認取り消しを違法と決めつけられるいわれはありません」
大田氏以来の国に提訴された知事の陳述は、19年の時を超え同じ訴えだった。

翁長知事陳述(2015年12月)
「日本には、本当に地方自治や民主主義は存在するのでしょうか。沖縄県のみに負担を強いる今の日米安保体制は正常と言えるのでしょうか。国民の皆様全てに問いかけたいと思います」
その後も国との裁判が繰り返される中、翁長氏は、2018年、病に倒れた。
妻・樹子さんは、知事に当選した夜の翁長氏の言葉を、今も忘れないでいる。

翁長知事の妻・樹子さん
「国は言うことを聞いてくれない。たぶん裁判所も僕たちの味方にはなってくれない。じゃあ、どうするか。闘う姿をみんなにみてもらうしかないわけ。必死になって抗う姿を県民と全国民と全世界に見てもらうしかない。政府に押しつぶされる姿をみんなに見てもらう、これしかないなと」