■選挙を見据えたせめぎ合いも 世論調査は半数以上が「不支持」

フロリダ州では7月1日から施行される法律が成立した。中絶について「妊娠15週目以降の中絶を禁止する」というものだ。(※レイプや近親相姦による例外規定は含まれていない)
同州のプロライフ活動家はもっと厳しい法律を求めているが、共和党のデサンティス州知事は、中絶をめぐる法律の厳罰化には及び腰だとみられている。最高裁の判断の受け止めについて尋ねられた知事は、質問を無視したとワシントンポストが伝えている。
大統領選挙戦でも接戦州の一つだったフロリダは、保守とリベラルが拮抗する州だ。同州では去年、8万件の中絶が行われたという。次の大統領選への出馬も視野に入れているデサンティス知事は今年11月に予定されている知事選挙で負けるわけにはいかない。無党派層を意識した思惑が、ドラスティックな法律を作る足かせになっているとみられている。

CBS News Poll Twitterより


CBSが行った世論調査では、今回の最高裁判断について全体の59%が「支持しない」と答えたという。対象を女性に限れば67%が不支持だ。今年11月の連邦議会中間選挙でも一つの争点になることが必至のテーマだけに、今後、政治的な思惑も法律の制定に影響する。

ニューヨークで行われた抗議デモ

■「中絶の権利の保護」を法制化する州も 大企業も支援の手を差し伸べ

中絶を制限する州がある一方、ニューヨークやカリフォルニアといったリベラルな州(首都ワシントンD.C.を含む)では「中絶の権利を守る法律」が作られる動きがあった。今回の判断を経ても引き続き中絶が認められる州は20州を超える見込みだ。
受け入れ可能な病院数や、移動の難しさといった課題も多くなるが、IT大手・メタやウォルト・ディズニーといった企業が、中絶が必要な従業員に対し、必要な渡航費などを支給する方針を明らかにしている。

ニューヨーク抗議デモ ドローンで撮影


ニューヨーク市内で行われた最高裁判断への抗議デモには、会場の公園に収まりきらない人が押し寄せた。主催者によると、2万人がデモに参加したという。肌感覚では、2年前のBLM運動を遥かに凌駕する人数だったと思う。
今回の最高裁の判断で、改めてアメリカの分断が浮き彫りになった。デモに参加した人たちの怒りに触れると、全く異なる2つの価値観が交わることは無いだろうと考えさせられた。

JNNニューヨーク支局 市川正峻