約半世紀にわたって、女性が人工妊娠中絶する権利を認めてきた判決を覆す判断が、6月24日に下された。
アメリカ連邦最高裁判所前には、中絶の権利を支持する「プロチョイス」派と、中絶に反対する「プロライフ」派の双方が集まり、今回の判断が発表された直後、互いの感情を爆発させた。

■トランプ前大統領の置き土産? 計26州で中絶に厳しい制限の可能性も

前大統領のドナルド・トランプ氏は、2016年の大統領選挙において「私はプロライフの最高裁判事を指名する」と公言していて、実際に自身の離任までに保守派の最高裁判事3名を指名。保守派6名vsリベラル派3名と保守派の優勢が固まった。
妊娠15週以降の中絶を禁止するミシシッピー州の法律についての違憲性の判断をめぐり、最高裁は“6対3”で、ミシシッピー州の定める法律を「違憲ではない」とした。プロライフ派にとって念願の結果を手にしたわけだが、実際にアメリカの中絶をめぐる法規制はどのようになるのか。

計26州で中絶が禁止または厳しい制限が設けられる見込み


今回の最高裁判断により、中絶をめぐる法規制は各州に委ねられることになった。
中絶の権利を支持するグッドマーカー研究所は、今回の最高裁判断をきっかけに全米50州の半数を超える計26州で中絶が禁止、または厳しい制限が設けられる可能性があると分析している。

■「トリガー法」の発動 13州では“速やかに”中絶禁止の動き

最高裁が判断を下した当日、ケンタッキー州やミズーリ州など7つの州では早速、中絶が禁止された。これらの州は最高裁の判断を受けて速やかに新たな法律を発動させることができる「トリガー法」を事前に制定していた。同様にトリガー法を準備していた州は、ほかにも6州あり、定められた手続きを経て法律が施行されていく。周到に準備をしていただけに、内容も極めて厳しい。
これら13州の法律は、ほぼ全面的に中絶を禁止していて、このうち7州ではレイプや近親相姦による妊娠についても中絶を認めていない。テキサス州の法律では中絶を施した医師は終身刑になる可能性もあるとしている。オクラホマ州では中絶処置を施した医療機関や、中絶の支援をした団体や人物を、市民が訴えることができる。
まだ法律は施行されていないものの、ノースダコタ州では、中絶を行っている唯一の病院が州外に移転することを決めたとCNNが報じている。

■「南北戦争」より前に成立した法律が“復活”か

人工妊娠中絶を憲法上の権利と認めた1973年の「ロー対ウェイド」判決より前から、中絶を禁止する法律を定めていた州がある。こうした州では、昔に定められた法律が、今回の最高裁の判断によって適応されるかが焦点になっている。
そのうちの一つ、中西部ウィスコンシン州には、1849年に作られた法律が存在する。母体の危険時を除く中絶を禁止するものだ。

共和党の議員と一部の保守的な法学者は、最高裁判断を受け、この法律を再び適用すべきだと主張しているという。日本に置き換えると、江戸時代末期に作られた法律が2022年に復活することになる。
一方で民主党のトニー・エバーズ州知事は「南北戦争よりも前に書かれた法律に、生殖の権利が支配されるべきではない」と主張し、仮に中絶を行った医師が訴追されたとしても恩赦を提供するとした。
“173歳”の法律をめぐる論争が巻き起こり、州内の中絶処置の先行きが不透明な中、混乱も起きている。CBSによると、州内で中絶を手掛ける病院は最高裁の判断が発表された直後から、患者の処置をすべて取りやめたという。6月24日には70人近くの予約が入っていたというが全てキャンセルし、他の州の系列病院に予約をし直した。