安定したマラソンの成績を続ける中でつかんだこと

前回MGCまでは、学生時代の延長で残した成績、と言えたかもしれない。しかしその後4年間、上位を続ける間に経験も積んできたし、実業団のトレーニングも身になった。20年の福岡国際は7km過ぎに転倒し、左ひざから流血するケガを負ったが2位。35km以降は優勝した吉田祐也(26、GMOインターネットグループ)より速かった。

翌21年の福岡国際は2時間5分台の日本記録が狙える2分58秒(/km)ペースに挑んだ。レース後半で気温が上昇して2時間8分台に終わったが、暑さに強いところはアピールした。暑さに加え、学生時代の練習や箱根駅伝5区に取り組んだことで上りにも強くなった。10月開催でコース終盤に上りがあるMGCは、大塚にとって有利となる要素が多い。

課題は前述したように、安定して上位に食い込んでも勝ちきれないこと。今年2月の大阪は2時間6分台を出しても日本人3位だった。西山和弥(24、トヨタ自動車)と池田耀平(25、Kao)の2人に32~33kmで引き離された。

大塚自身、その判断に後悔を感じていた。

「まだまだ距離は残っていると思って、無理をしませんでした。35km以降が向かい風になって、そこを1人で走ることにもなった。終わってみれば、もっと勝負しておけばよかったです。MGCはペースメーカーがいないので、そういった見極めがより重要になります」

勝ちきることはまだ一度もできていないが、経験を積んできたことは無駄ではない。トレーニングも大阪前には、福岡国際2レースよりも「上のレベルの練習ができた。それでレース前の会見で2時間6分台を口にできたのだと思います」と綾部総監督。

大学時代からの特徴であるスタミナがあることと、上りに強いことは大塚の大きなアドバンテージだ。加えて九電工で7シーズン、大きな中断なくトレーニングを継続してきた。その内容から自身が出せるタイムも予測できるようになっている。そしてレース経験も豊富と言えるほど積んできた。

まだ勝ったことがないマラソンで、大塚が勝ちきる準備が2度目のMGCを前に整った。

■MGCとは?
マラソンの五輪代表は16年リオ五輪までは複数の選考会で3人の代表を選んできたが、条件の異なるレースの成績を比べるため異論が出ることも多かった。そこで東京五輪から、男女とも上位2選手は自動的に代表に決まるMGCが創設された。MGCに出場するためには所定の成績を出す必要があり、一発屋的な選手では代表になれない。選手強化にもつながる選考システムだ。
五輪代表3枠目はMGCファイナルチャレンジ(男子は12月の福岡国際、来年2月の大阪、3月の東京の3レース)で設定記録の2時間05分50秒以内のタイムを出した記録最上位選手が選ばれる。設定記録を破る選手が現れない場合は、MGCの3位選手が代表入りする。大半の選手は絶対に代表を決めるつもりでMGCを走るため、一発勝負の緊迫感に満ちたレース展開が期待できる。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)