秦vs.シン 23年シーズン最後の戦い

秦澄美鈴(27、シバタ工業)が7月のアジア選手権に6m97(+0.5)の今季アジア最高記録、日本記録で優勝した。今季アジア2位はS.シン(19、インド)の6m76(±0)で、21cm差がある。秦が金メダル候補筆頭であることは間違いない。

2人は今季3試合で直接対決があった。2月のアジア室内選手権は秦が6m64で優勝し、シンは6m27で5位。しかし5月のゴールデングランプリ(GGP)は秦が敗れている。秦が6m48(+0.7)で4位だったのに対し、シンは6m65(+2.1)で3位だった。

だがGGPの秦はファウルの試技で、6m90前後の距離を跳んでいた。7月のアジア選手権は前半3回目終了時点でシンが6m54(+1.5)と、6m52(+1.0)の秦を2cmリードしていた。その状況でも秦は、「GGPにも来ていた選手。そのくらいは出してくるだろうな」と気にしなかった。裏を返せば、自分が力を出し切れば勝てる自信があった。実際、4回目に6m74(+1.7)で逆転すると、6回目の6m97で43cm差をつけた。
 
しかし8月の世界陸上ブダペストで、秦は6m41(-0.8)で予選通過に失敗。シンも同じで予選落ちしたが、6m40(-0.9)で両者の差は僅か1cmだった。秦の展望コラムで紹介したように、世界陸上の秦は向かい風に対応できなかった。追い風や無風なら不安材料はないという。杭州のピットが向かい風になったとき、ブダペストの反省を生かすことができれば、秦が金メダルを手にするだろう。この種目で勝てば、前日本記録保持者の池田久美子が06年ドーハ大会で金メダルを取って以来、17年ぶりとなる。

日本の成長を示す男子110mハードル

男子110mハードルは高山峻野(29、ゼンリン)の自己記録が13秒10で頭1つ抜けている。シーズンベストは13秒25で、朱 勝龍(23、中国)も同タイムで並んでいるが、国際大会の経験は高山が勝る。8月の世界陸上ブダペストでも高山が準決勝(13秒34・-0.1)を戦ったのに対し、朱は予選(13秒69・+0.5)落ちに終わった。7月のアジア選手権も13秒29(+0.6)で優勝した高山が、アジア大会でも金メダル候補筆頭に推されて然るべきだろう。

だが圧倒的な差があるわけではない。アジア選手権2位の徐 卓一(20、中国)、同3位のY.アル・ヨウハ(30、クエート)、昨年の世界陸上オレゴンで準決勝まで進んだ石川周平(28、富士通)の3人が13秒3台の自己記録を持つ。

日本は8月の世界陸上5位入賞の泉谷駿介(23、住友電工)が、世界陸上後のダイヤモンドリーグ・ファイナル(4位)に出場。アジア大会にはエントリーしなかった。国内2番手の選手がアジア大会で優勝候補筆頭に挙げられていること自体に、この種目の日本勢の成長が現れている。
 
06年ドーハ大会では、元日本記録保持者の内藤真人が13秒60(-0.2)で3位だった。優勝した劉 翔(40、中国)は13秒15で、2位の史 冬鵬(39、中国)は13秒28。アテネ五輪金メダリストの劉だけでなく、当時は中国2番手の選手にも大きな差があった。
 
女子走幅跳も池田の後は、アジア大会でメダルを取れなかったが、秦の頑張りで再度、アジアの頂点が狙えるようになった。大会4日目には女子棒高跳も行われ、今年4m41の日本新をマークした諸田実咲(24、アットホーム)が出場する。4m72のアジア記録を持つ李玲(34)ら中国勢との差は大きい。だが女子走幅跳も男子110mハードルも、以前はアジアでも歯が立たなかった。あきらめずに努力を続けることで、その差を縮めてきた。女子棒高跳などアジアの差が今は大きい種目も、その第一歩と位置づけてアジア大会に挑んで欲しい。