アジア版オリンピックと呼ばれる4年に1度のスポーツの祭典・アジア大会(9月23日~10月8日)。その激闘の裏側を現地で取材した高橋尚子さんに聞いた。
今大会、高橋さんが最も印象に残った選手は大会前に取材したバドミントン混合ダブルスの渡辺勇大(26・BIPROGY)、東野有紗(27・BIPROGY)のワタガシペア。今大会、準決勝では完全アウェーの中で世界ランク3位の中国ペアに大逆転勝利。決勝で世界ランク1位の中国ペアに敗れたものの、この種目において日本勢初の銀メダルを獲得した。

高橋尚子
「アジアが世界を制すと言われる競技で史上初の快挙、そして世界ナンバー1にも大きく近づいた。私はこのアジア大会の前にも取材に行かせてもらいましたけれども、2人の強さはコミュニケーション力です。声を掛け合うこと、このアジア大会でも様々な場面で見られました。苦しい時にミスをしても、点数を取っても、その後に目を合わせてハイタッチをして声を掛け合う、それを象徴するのが準決勝の中国戦でした。『足をもっと動かしていこうよ。今、我慢の時だよ、相手もつらいよ』そんな声をかわしたそうです。そして見事勝利し、史上初のメダルに繋がったわけです。このワタガシペアは前回のアジア大会ではメダルはありませんでした。東京オリンピックは同種目で日本初の銅メダル、そして今回は銀メダルですよ。もうこの一歩一歩のステップアップがすごいですよね。でも表彰式が終わった後、彼らから出てきた言葉は『悔しい』という言葉でした。もう気持ちは来年のパリに向いています。『上には上がいる、あと1個なんだ』っていうことで、来年のパリオリンピックは金メダルを目指すと強く語ってくれました。そんな2人をこれからも応援していきたいと思います」

10代の若手が躍動した今大会のアジア大会。高橋さんが来年のパリ五輪へ期待を寄せる2人の選手がいる。

草木ひなの選手

高橋尚子
「このアジア大会、若い選手の活躍が光りました。特に15歳コンビです。まず1人目はスケートボード女子パークの草木ひなの選手です」

ケガをも恐れない強気な攻めのプレースタイルから“鬼姫(おにひめ)”と呼ばれる草木。アジア大会では女子で最高難度の大技・バックサイド540を決め、国際大会で初の金メダルを獲得した。

高橋尚子
「15歳で金メダル。でもね、滑っている時がとにかく終始楽しそうで、終わったら他の国の選手とハイタッチをしたり声をかけ合う姿、いやもうスポーツの原点を見せてくれた、教えてくれたというようなね、本当に力強さを感じました」

滑り終わった後も弾ける笑顔で他国の選手と次々と抱擁を交わす草木。競技中でも互いに励まし合い、称え合うスケートボードならではのシーンが高橋の胸を打った。

張本美和選手

高橋尚子
「そして、2人目の15歳は卓球の張本美和選手ですね。中国勢の気迫に劣らない、そして存在感、頼もしさっていうのもね本当に知らしめた大会になったと思います」

15歳コンビのもう1人は、卓球・張本美和(15・木下アカデミー)。木原美悠(19・木下グループ)とのペアで出場した女子ダブルスの準々決勝では世界選手権2連覇の最強中国ペアを破る大金星。完全アウェーの中で攻めのプレーを貫き通し、価値ある銅メダルを獲得した。

高橋尚子
「何といってもあのダブルス、世界ナンバー1とナンバー3が組んだ中国のダブルスペアに勝利をしているんですよね。いや中国にもそして世界にも張本美和っていう名前を轟かせたそんな瞬間だと思います。若手選手がパリだけでなく、ロサンゼルスオリンピックまでをも楽しみにさせてくれる、そんな勢いがあったアジア大会だと思います」

■草木ひなの(くさき・ひなの)
2008年4月4日生まれ、茨城県つくば市出身。武器は「バックサイド540」。母の影響を受け8歳の頃にスケートボードを始めた。2022年の日本オープンで初優勝し、国内大会2連覇を果たしている。今年はアジア大会で優勝し、直後にローマで行われた世界選手権でも銀メダルを獲得した。

■張本美和(はりもと・みわ)
2008年6月16日生まれ、宮城県仙台市出身。ニックネームは「みみ」。兄は東京五輪日本代表の張本智和。両親も元卓球選手と卓球一家に生まれたこともあり、2歳から本格的に卓球を始め、10歳でU15日本代表に選出。13歳でナショナルチームの候補選手となり今後の活躍が期待されている。