「1つだけタイミングを取る」走りが身についた経緯

本職の200mでは、前述のように世界陸上でも安定して力を発揮している。だが最大目標としている決勝には、手が届かない。飯塚の自己記録は16年の日本選手権優勝時にマークした20秒11(+1.8)。ブダペストでは準決勝を着順通過(各組2着)した最低記録は20秒02で、3着以下のタイム上位通過の2人には20秒21までが入ることができた。

目標達成のためには条件の良い大会で19秒台(日本記録は20秒03)を出しておき、本番の準決勝で20秒10前後を出す必要がある。飯塚はもう何年も、そこに向けての試行錯誤を続けている。全日本実業団陸上ではどうだったのか。

「100mの走りではなかったです。20~40mでピッチが上がりませんでしたから。しかし僕も前半で、リズムには乗せることができていました。それで中盤から徐々に上げられた。200mのイメージで走ることはできましたね」

その走りができた要因として、「力感のない走りができている」ことを挙げる。前半で無駄な力を使わず、後半で抜け出す走りにつながっている。

「脚が先行したり腕が先行したりしないで、全身で上手くタイミングをとる走りができています。ウォーミングアップやドリルで、例えば腿上げでもスキップでも、1つだけタイミングを取って全てを動かすイメージです」

「いつ頃からそれができるようになったのか?」飯塚は「わからないですけど、今シーズンくらいですかね」という答え方をした。つまり明確なきっかけが何かあって、これからこの動きをやるぞ、と意識して変えたわけではない。これまでやってきたことの延長線上に、無駄な力を使わないためにタイミングを工夫する走りがあった。

長年速く走るために目指してきたことで、自然と今の走りにたどり着いた。

リオ五輪リレーメンバーの存在がプラスに

飯塚は自己新記録を出せば、来年のパリ五輪の標準記録(20秒16)も突破する。ブダペストと全日本実業団陸上の走りで「行けるかな」という手応えを得られた。

「ブダペストの20秒27は前半が10秒6台で、ちょっと遅めでした。後半は9秒6で自己最速だったんですが。前半を10秒4~5台で行けたら、と思っています。100mを10秒2台で走れたら、200mの前半を10秒4台では走れます」

追い風3.2mで10秒08なら、公認で10秒2台は出ていたと飯塚は考えている。つまり標準記録は、今の飯塚なら難しいレベルではない。

「あとは前半、上手くリズムに乗せて走れたら。まあ、見えてはいるんですけど、どうなるかはわかりません」

これをやれば出せる記録と見えていても、それを全て実行する難しさも身に染みてわかっている。だから安易に断言できないのだろう。しかしメンタル面でプラスに働いているのが、リオ五輪4×100mリレー銀メダルメンバーの存在だ。

「彼らが走っているのを見るだけでも嬉しいですね。嬉しいというか、楽しいです。同じアップ場にいるだけで元気をもらえます。今回のように(3人が予選各組1位を占め)先頭を引っ張って走ってくれて、いや本当に嬉しいですね。今回は(直接対決は)実現できませんでしたが、また一緒に走りたいです」

リオ五輪イヤー以来の飯塚の自己記録更新が、遠からず実現しそうな雰囲気が全日本実業団陸上で感じられた。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)