23日に開幕するアジア大会中国 杭州。男子に引き続き、柔道競技・女子7階級の展望をお送りします。
女子は日本の力が頭1つ抜けています。ライバルだった韓国が「リオー東京期」に退潮してもっかは立て直しのまっさい中であること、モンゴルの軽量級や中国の重量級といった強いパートが世代交代期にあたることも重なり、今回は全階級にわたって優勢。「金メダルラッシュ」がありえる大会になるのではないかと思います。
【48kg級】
世界選手権3連覇中、パリ五輪の代表に内定している絶対王者・角田夏実(31)の力が図抜けています。ほとんどの試合が巴投と腕挫十字固による勝利と言って過言ではないのですが、いまのところ世界大会でも、この独特の巴投に対処出来ている選手はいない。「優勝間違いなし」と言ってしまって良いレベルではないかと思います。五輪に向けて新たな技術の積み増しがあるかどうか、相手云々よりも内容面に注目したい大会です。
唯一の対抗馬と言っていい実力者が、昨年のタシケント世界選手権で銅メダルを獲得したアビバ・アブジャキノワ(カザフスタン)。パワーとスピードも兼ね備え、身体能力も抜群。遠間からは巴投や肩車、奥襟を持てば内股、密着して背中を抱けば小外掛と、距離によって技を使い分けてきます。今回角田と「試合になる」のは彼女のみと言っていいかもしれません。
メダル候補は、モンゴルのバフードルジ・バーサンフー。国内2番手とみる向きもあったのですが、試合内容が良く、伸びしろを買われての選出と見ます。ここまで名前が挙がった3名を追いかけるグループには、体幹が強く大物食い歴があるイ・ヘキョン(韓国)、粘戦タイプで寝技の得意なグオ・ゾンギン(中国)、正統派でこれも強豪からの勝利歴があるリン・チェンハオ(台湾)などが挙げられます。
【52kg級】
過去の実績でいえば2度世界選手権で優勝している(2017、2021)ベテラン・志々目愛(29)の名前をまず挙げるべきなのですが、このところの国際大会ではあまり成績を残せておらず、内容もいまひとつ元気がない。金メダル候補の筆頭はディヨラ・ケルディヨロワ(ウズベキスタン)としておくべきでしょう。5月のドーハ世界選手権で銀メダルを獲得してキャリア的にもいまが上り坂、昨年のアジア選手権では決勝で志々目に一本勝ちして優勝を攫っています。得意は「担ぎ技」で、袖をガッチリ絞っては袖釣込腰・背負投と強力な技を叩きこんできます。投げから寝技への移行も巧みで、相手の伏せ際を狙った腕挫十字固でたびたび「一本」をマークしています。強敵です。
というわけで、V候補ケルディヨロワに志々目を中心とした第2グループが挑む、というのが今回の構図とみて間違いないでしょう。このグループに属するのは志々目のほか、担ぎ技系でパワー抜群のラグワスレン・ソソルバラム(モンゴル)と、もとモンゴル籍でいわゆる「やぐら投げ」など男子顔負けの力技を繰り出すビシュレルト・ホルロードイ(アラブ首長国連邦)の2人。
ダークホースとしては上位陣からの勝利歴が多く潜在能力の高いジュー・イェキン(中国)、と返し技の得意なガリヤ・ティンバエワ(カザフスタン)の2人を挙げておきたいと思います。ティンバエワは48kg級から突如階級を上げてのエントリー。読めない部分があります。
【57kg級】
優勝候補は日本代表・玉置桃(29)。良くも悪くも意外性のあるタイプで成績に波もあるのですが、実力的には他を圧しています。しっかり力を出せば問題なく優勝、と考えておいていいでしょう。
玉置を追いかける「メダル候補」は、ラグワトゴー・エンフリーレン(モンゴル)とレン・チェンリン(台湾)の2人と考えられます。ラグワトゴーは担ぎ技系のパワーファイター。スター選手揃いの57kg級では比較的地味な存在ですが、世界選手権で2年連続銅メダルを獲得している実力派です。レンは日本のコマツに所属するベテラン。年齢は35歳になりましたが精力的に国際大会に参加、いまが全盛期と言って過言ではないほどの活躍を見せています。得意技は長い手足を生かした内股と、寝技の「横三角」。玉置にとっては国際大会でありながら互いを良く知る「日本の空間」で戦わねばならない、厄介な相手です。
韓国が選考の事情(昨年決めた代表選手を大会延期に伴ってスライド)で1番手ホ・ミミを個人戦にエントリーしていないこともあり、ここまでの3名と以降の選手は力に差がある印象です。6月の国際大会で突如優勝を飾ったシュクルジョン・アミノワ(ウズベキスタン)や、もとモンゴル籍のバツフ・アルタンツェツェグ(アラブ首長国連邦)、上位陣からの勝利歴があるツァイ・チー(中国)、ベテランのセヴァラ・ニシャンバエワ(カザフスタン)など名前を挙げることは出来ますが、上記3名の壁を崩すのはなかなか難しいと思われます。