【63kg級】
日本代表・髙市未来(29)が絶対の金メダル候補。実績・実力ともに他と隔絶しています。持ち前の左小外刈と左内股の威力、寝技の決定力の高さは言わずもがな。加えて東京五輪後は非常に論理的に試合を組み立てるようになって、隙がほとんどなくなりました。よほどのアクシデントがない限り優勝、と考えておいてよいでしょう。
追いかける選手はボルド・ガンハイチ(モンゴル)。昨年のアジア選手権決勝で鍋倉那美、2021年の国際大会グランドスラム・バクーでは堀川恵をいずれも内股「技有」で破るなど、なぜか日本人相手の大物食いが多い選手です。パワー派でありながら戦型・技種が多彩で、泥沼の「指導」合戦から一か八かの投げ合いまで様々な戦い方をこなします。対戦時には試合展開を誤らないよう、注意が必要です。
以降は差があります。韓国は57kg級同様、選考事情によりもっか実質1番手のキム・チスを送り込めておらず、今回代表を務めるキム・ジジョンは世界の強豪と伍するには力自体が少々厳しい。好選手タン・ジン(中国)も、東京五輪後は成績を残せていません。2015年の全日本学生体重別王者、早稲田大卒のキヨミ・ワタナベ(フィリピン)にとっては、この2人をしのいでメダルを獲得する大チャンス。ここにもぜひ注目してもらいたいと思います。
【70kg級】
優勝候補が田中志歩(25)、唯一対抗し得るのがグルノザ・マトニヤゾワ(ウズベキスタン)という構図でまず間違いないかと思います。
マトニヤゾワは腰技系のパワーファイター。背中を抱けば釣腰や釣込腰、両袖を絞れば袖釣込腰と、体の力を生かして「一発」を狙ってきます。一方の田中はもともと大内刈など体幹の強さを生かした強烈な技で鳴らしましたが、右膝負傷による長期離脱から復帰した今夏は、組み手と足技など「試合の組み立て」の上手さを前面に押し出して勝利を重ねました。新たなモードを得た田中がどのようにマトニヤゾワを退けるのか、注目したいところです。
この階級のアジア勢は決して層が厚くなく、以降は混戦状態です。今年に入って成績を伸ばしている23歳フェン・インイン(中国)は、マリー=イヴ・ガイ(フランス)やマルゴ・ピノ(フランス)など世界大会のメダリストから勝ち星を挙げており、面白い存在と言えます。ほか、メダルに絡んでくる選手を敢えて挙げれば、もと63kg級のハン・ヒジュ(韓国)ということになるかと思います。
【78kg級】
優勝候補の筆頭が髙山莉加(29)、ほとんど差のない位置で追いかけるのがマー・ジェンジャオ(中国)とユン・ヒュンジ(韓国)という「3強構図」です。
マーは2022年の世界選手権で銀メダル獲得。「巻き込み技」の得意なパワーファイターで、左右関係なく強烈な外巻込を仕掛けてきます。ユンは東京五輪で5位に入賞した29歳のベテラン。引き手で袖、釣り手で奥襟を持って戦う正統派で、得意技は内股。技の切れ味で勝負するタイプです。
先に日本代表選手紹介の稿で書かせて頂いた通り、髙山の純実力は世界王者に挑めるレベル。安定感が最大の課題です。先んじて大外刈や袖釣込腰を仕掛け、得意の寝技でしっかり仕留めるという、このところの王道シナリオに乗ってしっかり勝ち抜きたいところ。
この3人と以降の選手にはかなりの差があります。続くグループからは右組みからの左一本背負投が得意なイリスホン・クルバンバエワ(ウズベキスタン)の名前を挙げておきますが、あくまで「残り1つ」のメダルを目指すレベル。3強に割って入るのは現実的ではないと思われます。
【78kg超級】
実績・実力からすれば日本代表の冨田若春(26)が優勝候補筆頭。これをキム・ハユン(韓国)とシウ・シヤン(中国)の2人が追いかけるというのが大枠の構図です。ただし、キムとシウは、2人ともに5月のドーハ世界選手権で5位、8月のワールドマスターズで銅メダルと、明らかに上り調子。一方の冨田はワールドマスターズの2回戦で中国の2番手スウ・シンに敗れるなど、少々元気がありません。この「調子の波」のクロスまでを考えると、この3名が、フラットなスタート位置から金メダルを争う「第1グループ」と言ってしまってもよいのかもしれません。
キムは23歳、足技の得意なパワーファイターです。ジュニア期は「何が何でも大内刈」とばかりにこの技一本槍で好成績を連発。今も大内刈が軸ですが、技種も増やして力をつけ、機動力を前面に押し出して戦っています。26歳のシウは腰技系。上背はないのですが筋肉質で、腰を支点に「振り投げる」ような技法の内股・払腰で豪快な「一本」を連発しています。
冨田も小型で、機動力の高さで戦うタイプ。これまでターゲットにして来たような超大型選手ではなく、足技の得意なキム、短躯で腰をぶつけてくるシウと戦わねばならないアジアの舞台は少々勝手が違います。どう試合を組み立て、いかに勝ち抜くかに注目です。
この3人と他の選手はかなり力の差がある印象です。残る1枠の表彰台を巡って争うのは、小柄な体形を生かして東京五輪後に台頭したアマルサイハン・アディヤスレン(モンゴル)、カミラ・ベルリカシュ(カザフスタン)の2人と考えられます。
(TEXT by 古田英毅)
【柔道日程】
24日 女子48kg級、女子52kg級、男子60kg級、男子66kg級
25日 女子57kg級、女子63kg級、女子70kg級、男子73kg級、男子81kg級
26日 女子78kg級、女子78kg超級、男子90kg級、男子100kg級、男子100kg級
27日 混合団体
※写真は角田選手