■63kg級 髙市未来(29、コマツ)
旧姓田代。昨年11月に元66kg級日本代表の髙市賢悟氏と結婚して、姓が変わりました。日本の少年柔道競技がもっとも熱かった時期のスターで、小・中と取るべきタイトルを全て取り、組み手も投げも寝技も完璧。「こういうことが出来る選手を育てたい」という日本の少年指導者の願望をすべて集めたような、時代の象徴となる選手でした。高校2年生の夏に膝を大怪我しましたがその後もキャリアは止まることなく、以後の活躍は皆さんもご存じの通り。2016年リオ、2021年東京と2大会連続で五輪代表を務め、2019年の東京世界選手権では銀メダルを獲得。絶対王者クラリス・アグベニュー(フランス)のライバルとして世界の最前線で戦い続けています。もっかは、2022年の世界王者・堀川恵との激しいパリ五輪代表争いの渦中にあり、今回は間違いなく「負けられない大会」です。得意技は小外刈、内股、大外刈に寝技。参加選手の顔ぶれを見る限り、力は一段大きく抜けています。アジアのファンに「世界基準」を見せつけてくれる大会になるものと思います。
■70kg級 田中志歩(25、JR東日本)
2018年ジャカルタ大会では団体戦代表を務めて金メダルを獲得。今回は初めて個人戦の代表としてアジア大会に挑みます。高校時代まではレスリングのトップファイターでもあり、このキャリアもあってか体幹の強さが異常。このパワーと得意の大内刈を生かして、2021年には体重無差別の皇后盃全日本女子選手権で、驚きの優勝を飾っています。昨年秋の世界選手権で膝を負傷してパリ五輪代表争いからは降りることとなってしまいましたが、国際大会復帰戦となった今年6月のグランドスラム・ウランバートルでは見事優勝。休養期間に培ったのか、組み手やインサイドワークなど、これまでになかった戦術性の高さを見せつけてくれました。今回は持ち前のパワーに、新たに身に着けた戦略・戦術をプラスして、一段上の戦いを見せてくれるのではないでしょうか。
■78kg級 高山莉加(29、三井住友海上)
国内・国外で早い時期から数々のタイトルを獲得。のちに五輪金メダリストとなる濱田尚里ら「フルメンバー」が揃った2018年の国内体重別最高峰大会(全日本選抜体重別選手権)で優勝するなど、実は「リオー東京期」からその力は高く評価されていました。当時の強化関係者には「最高到達点を見れば、一番強いのは髙山」との評があったほど。勝つときは「秒殺」連発の圧勝も負ける時には意外とあっさり、というこの安定感のなさが魅力でもあり弱点でもある、試合を見ること自体が非常に面白い選手です。もっかは、濱田尚里、梅木真美と「三つ巴」のパリ五輪日本代表争いのまっただ中。建前上は五輪争いの対象大会から外されている今大会ですが、勝利がもたらすインパクトは大きいはず。必ず勝ちたい大会です。得意技は大外落や袖釣込腰ですが、ひときわ注目して欲しいのは寝技。彼女は「腕緘(うでがらみ)」という関節技の名手です。腕を取った、と思った瞬間相手が激しく「参った」する、あるいは関節を極められたまま抑え込まれて身動き出来ず、無念の表情で終了ブザーを待つのが勝利の絵の定番。「投げが終わった」「寝技になった」と思っても視線を切らずに、画面を見つめていただきたいと思います。
■78kg超級 冨田若春(26、コマツ)
「リオ―東京」期の終盤になってブレイク。2021年から3大会連続で世界選手権の代表を務め、2021年は銀、2022年は銅メダル。2020年と2022年には体重無差別で争う国内最高峰大会・皇后盃女子選手権も制して、五輪金メダリスト・素根輝に続く地位を確立しました。そして今回満を持して、アジア大会個人代表の栄を得たという形です。身長166センチと世界の重量級の中では小柄なのですが、これを生かした小回りの良さ、機動力の高さが持ち味です。得意技は釣り手で片襟を差しての体落や背負投。相手を動かす中で一瞬で加速、タイミングを合わせて質量を一点にガチンとぶつけるこの技はまさに名人芸。アジアの重量級は一頃低調だった中国・韓国選手が大型を揃えて激しく巻き返して来ていますが、その中で小柄な富田がいかに勝つか。ここにぜひ注目してもらいたいと思います。
※写真は前回ジャカルタ大会で金メダルを獲得した角田選手
(TEXT by 古田英毅)