前回の男子に続いて、今回は女子の日本代表選手を紹介します。女子は男子ほど大胆な選抜はなく、「五輪出場可能なランキングポイント保有選手を、各階級必ず2名以上確保する」という大戦略に則って、基本的には五輪代表に続く立場の選手が選ばれました。伝統的なアジア大会の派遣基準に近いと言えます。これに、既にパリ五輪代表に内定している48kg級の角田夏実に、五輪代表争いの渦中にある63kg級の髙市未来と78kg級の高山莉加の3人を加えて代表チームを構成した形。非常に手堅い選抜となっています。

■女子48kg級 角田夏実(31、SBC湘南美容クリニック)
2021年ブダペスト、2022年10月のタシケント、そして今年5月のドーハ大会と世界選手権を3連覇。既に来年のパリ五輪代表に内定しています。今大会の女子柔道競技全体を通じた「目玉」の選手と言っていいでしょう。得意技は巴投と腕挫十字固で、ほとんどの試合をこの技で勝っていると言って過言ではありません。特に巴投には尖りアリ。相手の股中を超えて脚を差し込んでリフトし、両足を巧みに使って相手を送り出す、従来の巴投とまったく違うこの「角田巴」は世界中にフォロワーを生んだ、柔道技術史においても特筆されるべき巧技です。いまのところ海外選手でこれを止めたものは皆無。今回も「一本」連発間違いなしのこの技にぜひ注目して欲しいと思います。また、若い頃から定番のエリートコースを歩む選手が多い日本の女子にあって、大学(東京学芸大)を卒業してから、それも独特・オリジナルのスタイルで頭角を現した異色のキャリアも話題の的。とかく子どもの頃から「教えられ過ぎ」で技術的にもキャリア形成ルートにも閉塞感のあった日本女子選手に新たな道を開いてくれるのではないかと、この点も非常な注目を集めています。年齢こそ31歳ですが、間違いなく「新しいタイプ」の選手です。

■女子52kg級 志々目愛(29、SBC湘南美容クリニック)
2017年と2021年の世界選手権で金メダルを獲得。阿部詩、角田夏美(当時52kg級)とともに、「リオー東京期」の52kg級に日本の黄金時代を築きました。得意技は抜群の切れ味を誇る内股と、この技を警戒した相手の足元を刈り取る小外刈。パワー派が増えた世界の52kg級にあって、技術の高さ自体で立つ、階級きっての「業師」です。アクセントとして効いていた「韓国背負い」という技術がルール上禁止されたこともあり、最近は試合の組み立てに苦慮。意外な苦戦が続いていますが、今大会を再浮上のきっかけに出来るか。彼女らしい、鋭い技の炸裂に期待です。


■女子57kg級 玉置桃(29、三井住友海上)
北海道出身の29歳。高校(藤村女子高)時代から名門・三井住友海上での日常的な稽古を許された、早い段階から非常に期待されていた選手です。2021年5月の世界選手権では銀メダルを獲得。アジア大会では2018年ジャカルタ大会で金メダルを獲得しており、この杭州大会で2連覇を目指します。先に持って相手に持たせぬまま一方的に掛ける「組み際」の強さが特徴で、得意技は大内刈や袖釣込腰に大外落、そして寝技。体の強さとスピードを兼ね備えた、非常にこの世代の日本女子らしいしぶとい柔道が持ち味です。また、この選手の特徴として「団体戦の強さ」が挙げられます。国内団体戦の最高峰大会である全日本実業団体対抗大会では常に期待以上の活躍を見せて、MVPの常連。世界選手権でも団体戦代表として4度金メダルを獲得しています。「チームのために」という磁力を体に帯びると一段パフォーマンスが上がるタイプ。個人戦はもちろん、団体戦の活躍にもぜひ注目を。