トヨタ自動車記録保持者になったことに慢心しない
――2時間06分45秒はトヨタ自動車チームの最高記録です。東京五輪代表だった服部勇馬選手(29、自己記録2時間07分27秒)や昨年の世界陸上オレゴン代表だった西山雄介選手(28、2時間07分47秒)を、初マラソンで超えたことはどう思っていますか。
西山:
勇馬さんが一番調子の良いときは2時間5分台とか、その先の記録が出せたと思います。雄介さんも高速レースを走る機会があれば、もっと高いレベルの記録で走るのは間違いありません。丸山竜也さん(28、2時間07分50秒)、畔上和弥さん(26、2時間08分29秒)、そしてこれからマラソンを始める選手たちも、僕くらいのタイムは出すと思いますよ。大阪ではたまたま2時間6分台を出せただけで、それに驕っていたらすぐに抜かれてしまいます。他チームには2時間5分台の選手も最近はかなり出てきていますよね。そういったところを目指して行く気持ちでトレーニングを積んでいます。
――西山雄介選手は初マラソンの22年別大で、当時の初マラソン日本最高に近いタイム(2時間07分47秒)で優勝しました。その年の世界陸上オレゴン大会代表に選出され、オレゴンでは13位(2時間08分35秒)でした。初マラソンで世界陸上代表を決めた点は、西山和弥選手も同じです。
西山:
練習は同じチームの選手でもあまり比較しません。マラソンはタイプ的な違いが大きく出る種目で、その中で組み立てますから。他人との比較より、自分と対話してどうやったら自分のマラソンを突き詰められるかを考えています。それでも勇馬さんや雄介さんの良いときの練習を自分ができるかといったら、できないと思います。雄介さんからは昨年の練習内容を聞いていますが、距離走などかなり質の高い設定で行っていました。自分は体力的に、まだまだかなわないと思っています。でも自分は、今ある自分の力の中でトレーニングはできているので、自分のトレーニングを見失わずにやっていきます。
――西山雄介選手から、昨年の世界陸上オレゴンのことはどう聞いていますか。
西山:
体も今までにないような絞り方をされて、最善の準備ができていたそうです。それでも30km付近で離れてしまったことが悔しい、とおっしゃっていました。徹底した食事管理もされて、本当にできることは全てやったのに入賞に届かない。世界がどれだけレベルが高いかを実感しました。でも、あの舞台で2時間08分35秒です。30kmから後れても淡々と前を追いかけて、最後の2.195kmは世界のトップ選手たちと遜色ないタイムで上がっています。雄介さんのそういう姿を見ているので、自分はどれだけそこに近づく準備ができているのかな、と思います。
ブダペストのマラソン・コースのイメージは?
――ブダペストのコースの下見はしたのでしょうか。
西山:
TBSさんの作成された映像は拝見しました。現地に入ってから最後、直接確認します。最初はスピードに乗りやすいコースなので、ハイペースになる可能性もあるでしょう。あとはやはり、ヨーロッパ特有の石畳の走り方は意識します。30kmとか走ってから石畳で力が上手く伝えられない走りになると、腰が落ちたりして全然動かなくなってしまうかもしれません。
――世界陸上は順位が大事な大会ですが、どのくらいのタイムで走れる仕上げ方をしたいですか。
西山:
去年のオレゴンのような気象条件なら、2時間7分半は切って、できれば6分台も出していかないといけない。もちろん夏なので、どういう気象条件になるかわかりません。トヨタ自動車の社員でポーランドに駐在されていた方が、ハンガリーにもよく行っていて、湿度は低いけど気温は高くなりやすいと聞いています。陽射しも強いらしいです。暑さ対策は勇馬さんが19年のMGCや東京五輪で行ったノウハウがトヨタ自動車にはあるので、暑さ対策もちゃんとやっていきます。
――シニアの日本代表は初めてですが、どんなところを自信にしたり、楽しみに思ったりしていますか。
西山:
練習自体は大阪マラソン前と変わらずできています。夏場なのでダメージが大きくて次の練習を抑えめの設定に変えたりすることもありますが、40km走の本数も同じくらいできていますし、目標としていた距離よりも5月、6月は上乗せして走れています。準備はしっかりできていると思いますね。自分は世界陸上やオリンピックを目指す位置にはいなかったところから、大阪の結果でチャンスをいただくことになりました。責任感も感じていますが、こういうチャンスを、代表のユニフォームを着て世界のトップ選手と走るというところを、責任と同時に楽しみたいと思っています。
(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)