「捕虜交換に意味はない」「その後の人生をどう実現するか」が“本質”

フーシ派から離れ、社会復帰に成功した人もいる。彼らは永井さんたちのプログラムでソーラーパネルの設置技術を学んだ。長びく戦争でイエメンの電力事情は厳しいため、需要はある。

この日、刑務所での設置作業を行うことになった。

フーシ派の投降兵
「今日の仕事は特別でした」
「みんなでそれぞれの考えと経験を合わせました」

働くことで報酬を得る。自立への一歩となった。

2023年3月、進展があった。イエメンの内戦に深くかかわるサウジアラビアとイランが、中国の仲介で外交関係を正常化させることで合意したのだ。(※正常化は3月、捕虜解放は4月)

緊張緩和の機運が高まり、政府側とフーシ派側、双方の戦争捕虜、合計900名近くが交換されることになった。しかし永井さんは捕虜交換だけでは十分ではないと考える。

永井陽右さん
「捕虜交換に意味はない。意味があるのは解放することなので。プラス、その後の人生をどう実現するかは誰も気にしない。そここそが本質なので、そこをどう実現するか」

「彼らが違う生き方を実現できるように」戦争捕虜の社会復帰に向けて

中部マアリブ、現在のイエメン政府の政治の中心地だ。永井さんは、フーシ派から離れたい捕虜たちの問題を解決するため政府の重要人物に会いにいった。

捕虜交換におけるイエメン政府側交渉団のトップ、ハディ・ヒージ氏だ。フーシ派側の代表団や国連などと数々の交渉を行ってきた。永井さんは、捕虜交換だけでなく、社会復帰支援と釈放を推進するように訴えた。思いは通じるのか。

捕虜交換・イエメン政府代表団 ハディ・ヒージ氏
「日本人でなかったら別の目的があると疑っていました。フーシ派の間違った考えを変えることが重要だと思っています。釈放した捕虜のことでは、とても頭を悩ませています。彼らはまた無理やりフーシ派に戻らされるか、殺されるしかないのです」

永井陽右さん
「でも今、私がここに来た。もう二度とこんなことが起こらないようにする」

ハディ氏は永井さんの訴えに、政府の公式な文書として社会復帰支援の重要性を記し、協力を表明した。早速、マアリブの収容所でも700人の捕虜を対象にした支援が始まった。

永井さんは、イエメン政府とフーシ派に自分達の活動の意味が見えるようにしていくことが重要だと考える。

永井陽右さん
「捕虜交換って響きは何か格好いいけど、駒と駒の交換でしかない。リハビリを今後、イエメン政府としてやっていくと、自主的な宣言であっても、姿勢を見せることが大事なので。彼らへのリハビリ、そして紛争の中で彼らが違う生き方を実現できるようにしていくっていう事をやっていくのが我々の矜持なので、そこは何があっても絶対ブレないです」