「夢はかなわない」両親を失った少年の日記
私たちはロシア軍に両親を殺害された少年を訪ねました。首都・キーウ郊外のシェフチェンコべ村に住む13歳のティモフィー君。弟とともに今は叔母さんに引き取られ暮らしています。
ロシア軍は去年3月から1か月にわたり村を占領。その後、民家の地下室から拷問されたうえ、射殺された6人の遺体が発見され、村で虐殺が行われていたことが判明しました。

ティモフィーくんは、ロシア軍の占領下、砲撃が激化し何度も地下室に避難する日々を過ごすなか、日記をつけていました。そこには、揺れる心が綴られています。
「勝利の望みはどんどん消えていく。電気もまだ無いし、パンも足りない。我慢も限界だ…」
ティモフィー君の両親が亡くなったのは、村がロシア軍に占領された直後、外出先から自宅に帰る途中だったとみられます。
当初、その事実を知らされてなかったティモフィーくん。両親の死を知ったのは、数日後…近所の人と話していた時でした。
ティモフィーくん「『あなたが両親を亡くした子なのね』と聞いてきたので、僕は『どういう意味ですか?人違いだと思う』と言いました」
そして、ティモフィーくんは、叔母さんを問いただし、真実を知ったのです。
「ママとパパに何が起こったか知った、殺されたんだ。やっと真実を聞いた」

実は、亡くなる間際、彼はお母さんと、電話で話していました。
最後に聞いた言葉は「ティモフィー、弟と早くバスルームに隠れなさい」。そして、電話越しに聞こえたという銃声…。
その意味を、彼はようやく知ったのです。
ティモフィーくん「何も感じませんでした。両親は突然いなくなってしまった。僕には理解できません。まるで何かを奪われたかのようです」
叔母さんによると、彼の心は今も揺れているといいます。
ティモフィーくんの叔母オレーナさん
「以前のティモフィ―は攻撃的な性格ではありませんでした。でも今は、何か聞くと叫ぶように答えるんです。私が『ただ聞いただけなのに、なぜ叫ぶの?』と聞くと、『叫んでるつもりはないけど、そうなってしまってしまうんだ』とティモフィーは言うんです」
この1年、カウンセリングに通い、心の治療を受けているティモフィーくん。

日記には、自らを責めるような言葉も、綴られています。
「すべての不幸、不運、善悪は、磁石に吸い寄せられるように、僕が引き寄せている。夢は叶わない…」

家族を奪われた子どもの心にも、戦争は深い傷を残しているのです。
取材したJNNニューヨーク支局・増尾聡記者のコメント:
ウクライナでの戦争は今も続いていて、いまこの瞬間も、子どもたちが様々な形で傷つけられています。心のケアにあたるウクライナの方々が皆さんおっしゃるのは、こうした子どもたちの治療を本格的に始めることができるのは、戦争が終わってからなんだと。そこがスタートなんだというふうに強く言っていました。
ウクライナの「戦後」は、いつ来るだろうか。
(TBSテレビ「つなぐ、つながるSP 戦争と子どもたち 2023→1945」8月12日放送より)