こちらの記事は『いなくなればいい』死刑囚の差別的言動。血だらけで通報を助けた被害者が、7年目に示す「答え」とは(前編)」の続きです。

「『大丈夫』という言葉がほしいんです」

30年以上続いた施設での暮らし。
心配する両親でしたが、日帰りの外出でも一矢さんはリラックスした表情を見せるようになっていきます。

外出練習の一環で実家で家族や大坪さん(右)に誕生日会を開いてもらう一矢さん

大坪さんがそばにいてくれるなら、一矢さんも街の中で暮らしていけるかもしれない。
剛志さんとチキ子さんは、思いを強くしていました。

2020年7月、アパートを借りた一矢さんは、芹が谷園舎から日帰りでの滞在を始め、8月には宿泊に挑戦するまでになっていました。

この時期、大坪さんは一矢さんが介護者に向けて発している「サイン」を感じ取っていたと言います。

部屋でくつろぐ一矢さんですが、見えないところで大坪さんが家事をしていると、不安になるのか、叫び出します。

「出しちゃいけないことはわかってるけど、自分で抑えることがどうしようもなくできないから、『大きい声出しちゃいけない』って大きい声を出す。側に居て欲しいっていう。介護者の立ち位置を教えてくれている」(大坪さん)

食事の時に「おなか痛い」と言って止めては、すぐに「食べるー大丈夫?」と尋ねるのもそうでした。

「『大丈夫』という言葉がほしいんです」

大坪さんが「大丈夫」と言うと、安心したように、一矢さんはまた食べ始めます。