「へーなんとなく聞いたことあります。こんな本格的な革張りのソファーまでつくってるんですか」
「そうなんだよ、キャピックというブランドでいろんなものをつくって販売もしてるんだけど、検察庁や法務省内にある家具やソファーセットはこれが多いんだよね」
その瞬間、ある考えがひらめいた。取材活動のきっかけ、つかみの話題になるのではと考えたのである。
それからいろいろ調べてキャピック製品を買い集めた。革靴、財布、ベルト、ノート、リュック、手帳、、、身に着けるものはできるだけ揃えることにした。
翌日からの検察関係者との会話は、できる限りほぼキャピック製品の話題につなげ、やりとりをスムーズにもっていくように努めた。刑務所やキャピック製品の話になるとほとんどの検察関係者が楽しく会話をしてくれた。
まさに取材の潤滑油となる話題を見つけたのである。
「へーいい靴だね、それどこで買ったの?」「キャピック製品です」「わたしも何足も持ってるよ・・・」
「そのリュックどこかで見たことあるね?」「キャピック製品です」「やっぱりそうでしょ、おれも使ってるから」
当時、検察庁の合同庁舎の隣には法務省の建物があり、地下でつながっていた。法務省の地下1階には刑務所作業製品のショップが常設されており、特捜部の検事たちは、昼食を法務省地下1階のそば店で取ったあと、ショップに立ち寄って刑務所作業製品を見て回り、それから自分の部屋に戻るパターンが多々あり、多くの検事が刑務所作業製品に詳しかった。
わたしは法務省の地下で手に入らないものは、府中や千葉、横浜などの各刑務所の常設展示場に足を運んで、それぞれの「特産品」を購入していた。
当時はキャピック製品の知名度も低く、これを浸透させるため法務・検察の組織内で告知にも力を入れている時期でもあり、共通の話題として非常に盛り上がった。
また折に触れて取材に協力してもらった様々な方へのちょっとした謝礼としても重宝した。とくに刑務所の名前が入っている「網走刑務所」の木製の皿、「府中刑務所」の各種の文房具は珍しがられた。
なかでも2002年から定番でシリーズ化された「函館少年刑務所」の「マル獄」シリーズはいつも入手困難なほど人気だった。「獄」のロゴがプリントされたエプロンやトートバッグ、小袋などは柔らく使いやすいと女性にも好評だった。
今回もいずれの会場でも「マル獄」のトートバッグは早い時間に売り切れていた。

新型コロナウイルス対策の影響で売上金が減少
そんなキャピック製品だが、新型コロナウイルスの影響を大きく受けることになる。
毎年、各地の刑務所や駅前のモールなどで開催されていたキャピック製品の即売会は中止や規模縮小を余儀なくされ、売り上げも大きく落ち込んだ。それまでずっと8億円を超えていた年度の売り上げがコロナ禍の2020年度は3億円に落ち込み、2021年度と2022年度も5億円台にとどまっている。
当然のことながら、売り上げが減ると原材料の調達費や犯罪被害者団体への支援に充てられる金額にも影響が出てくる。
しかし、昨年末から今年に入ってからは各地で本格的に対面の即売会も徐々に再開されており、今年の12月には年に1回の大規模な全国矯正展も予定されており、少しずつ明るい兆しが見えてきている。
【刑務所作業製品の売上高】
2018年度 9億5400万円
2019年度 8億4500万円
2020年度 3億6900万円
2021年度 5億 500万円
2022年度 5億9800万円
(公益財団法人矯正協会 刑務作業協力事業部への取材より)
ラグビーチームやプロ野球チームとのコラボ、「ふるさと納税」の返礼品にも登場
こうした中、近年は地域の特色を生かしたオリジナル製品、新商品の開発も進んでいる。
「府中刑務所」では「ラグビーのまち府中」を盛り上げようと普段はライバルの地元2チームのエンブレムが一緒にデザインされたレア物のトートバッグが一番人気だ。

府中刑務所と言えば1500人を収容する日本最大の刑務所。2011年4月9日には日本最大の暴力団のトップが刑期を終えて5年4ヵ月ぶりに出所した際の厳戒態勢の映像が印象的だったが、「矯正展」では刑務所の西側に広がる檜原村の杉材を用いた鍋敷きや、屋久島産の杉板を使った一枚板のテーブルのオーダーメードも展開していた。

地元のスポーツチームとのコラボでは「網走刑務所」は北海道日本ハムファイターズと2022年からバッグを製作したり、マツダスタジアムから近い「広島刑務所」ではカープのキャラクターをつくったり、「甲府刑務所」は女子サッカーチームとのコラボを手掛けている。
そして驚くことに2016年からは「ふるさと納税」の返礼品としてキャピック製品が採用されている。
ウェブサイトには「秋田刑務所」のチェストや「静岡刑務所」のスツール、「川越少年刑務所」の埼玉産ヒノキを使用した「積み木」セットや「尾道刑務支所」の女性用の下駄、「長野刑務所」の草木染めシルクマフラーなど、職人顔負けの匠の技が光る製品も揃っている。
リピーター同士のある思い出
政治家の汚職や犯罪企業を捜査する東京地検特捜部のある検事との思い出がある。
「千葉刑務所」と言えばかつては元赤軍派のメンバーや大物右翼活動家が服役していたことでも知られるが、無期懲役など刑期が長い受刑者が収容されているため、短い期間ではなかなか技術継承ができない高いスキルを求められる製品、完全受注生産の「神輿」や「山車」、それに高品質のオーダーメードの紳士用の「革靴」などを製作している。
わたしが親しくしていた東京地検特捜部の検事も「千葉刑務所」製のカンガルー革のシューズ(現在は牛革となっている)がお気に入りだった。
総会屋への利益提供に端を発した一連の金融経済事件、捜査が緊迫した局面を迎えていた日の朝、その特捜検事は一目でキャピック製品とわかる美しいフォルムのカンガルー革のシューズを履いて颯爽と玄関から出てきた。

















