しかしこの特捜検事は一切、捜査に関する話はしないことで知られていたが、わたしは毎朝、特捜検事が官舎から出ておよそ2キロの出勤途中の散歩に同行していた。1対1の真剣勝負の取材、その日も事件のことを尋ねても何も言わなかったが、ポツリと一言「やっぱりきょうはこれを履いてきたよ」と答えてくれたのである。
日々の付き合い、やりとり、息づかいからもその日に強制捜査に着手することは確信できた。
その特捜検事の一言は捜査着手のタイミングを知る「情報」として十分だった。
すぐに「東京地検特捜部〇〇社にきょう強制捜査」のニュース速報を他社に先駆けて報じたことは言うまでもない。たとえ他社の記者がいたとしてもわたし以外、カンガルー革のシューズを媒介にした特捜検事からの阿吽のメッセージを受け取ることはできなかっただろう。
そんな30年前の出来事が頭をよぎりながら、久しぶりにキャピック製品を見ていると、あれからどれだけの数の受刑者がどれだけの製品を丹精込めてつくりあげ、出所後にどんな社会復帰を果たしてしているのだろうかと想像をめぐらせた。
受刑者が再び刑務所に戻らないために…「再犯防止」めざして
そんな中、今年に入って各地でようやく即売会が再開されはじめ、私が訪れた「矯正展」では多くの人たちが足を止めていた。
最初は取材相手との話題づくりのために購入したキャピック製品だったが、長く使えば使うほどその確かな技術、丁寧に作られたクオリティの高さがよくわかった。ほとんどが市場価格の半値以下でこれ以上のコスパはないため、いつの間にかリピーターになった次第である。
売上金の一部は受刑者の社会復帰の支援とともに犯罪被害者支援団体の活動の支援にも充てられる。犯罪被害者はたとえ民事裁判で勝訴しても加害者側の支払い能力がないことなどから賠償金を受け取れないケースも多く、日々事件のニュースを伝える中で少しでも犯罪被害者への支援が増えればと願っている。
犯罪白書によると、現在の国内における再犯者率は約49.%(2021年)でコロナの影響による雇用の悪化もあり、刑務所を出所した2人に1人が犯罪を繰り返し、刑務所に戻っていることになる。
さらに刑務所に再び戻った受刑者のうち、再犯で逮捕された際に無職だった割合はおよそ7割(2021年)という数字もある。つまり出所したあと仕事が見つからない、就職が困難であることが再犯につながる大きな要因となっている。そのため服役中の刑務作業というのは受刑者にとって出所後に仕事を得るかどうかを左右する大きな役割を担っている。
受刑者の中には何か事情があって犯罪につながってしまい、懲役刑を受ける身になっただけの人もいる。一歩間違えればどんな人間でもその可能性は否定できない。
また人は更生が可能な生き物だという希望の灯を消してはいけないと思う。受刑者の更生への理解と社会復帰に向けた応援、犯罪被害者の方々へのささやかな支援、そして何より丁寧で確かな手作りの逸品、やはりこれからもリピーターを続けるだろう。
TBSテレビ情報制作局兼報道局
「THE TIME,」プロデューサー 岩花 光


















