『死んだ方がマシかなと考えた時期もあった』

 下坂さんが異変を感じたのは2019年の夏でした。

 (下坂厚さん)
 「店までの道を間違えたりとか、いままでになかったことが増えてきたりすると、『あれ?』と思って。それで受診するきっかけになった」

 医師から告げられたのは「若年性アルツハイマー型認知症」という思ってもみなかった病名でした。

 (下坂厚さん)
 「認知症になったら何もわからなくなるとか徘徊するとかね。家族のこともわからなくなるとか、全部忘れてしまうとか、そういうイメージしかなかったので。『自分がそれになってしまったのか』と思った時に目の前が真っ暗になった」
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 長年勤めた鮮魚店から独立して仲間と新たな店を立ち上げた、まさにこれからという時でしたが、迷惑はかけられないと診断の1か月後に自ら仕事を辞めました。

 (下坂厚さん)
 「ずっとサラリーマンで生きてきて、そうじゃなくなった時に急に社会から取り残されたような、すごく不安になった。じゃあいっそのこと自分が死んだらその保険金で住宅ローンがチャラになるのかなとかね、そんなことも考えたりとか。死んだほうがマシかなとか、そういう時期もありましたね」
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 (妻・佳子さん)
 「生活の事とかも大変ですけど、まずやっぱり認知症というと『忘れてしまう』というのがあるし。『私のこともきっといつかわからなくなるんや』っていうのがまず悲しくて。(病名を知った)晩から泣いていたんじゃないかなと思いますけどね」
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 働き盛りの世代は仕事に支障が出るケースが多く、2020年の「東京都健康長寿医療センター」などの調査では、若年性認知症患者の約58%が自己退職、約8%が解雇されています。