■何軒回っても手に入らない粉ミルク「1600km探し回った」 

アメリカ・ニューヨーク市内の薬局や小売店をいくつ回っても、粉ミルクが売っていない。5月中旬以降、普段は粉ミルクが陳列されているはずの棚は空っぽの状態が続いている。まもなく1歳になる娘がいる我が家にとって非常に頭の痛い状況だ。通信販売でも手に入らない。予備で保管している液体ミルクを、娘は嫌がらずに飲んでくれるだろうか。

CNNは「1000マイル=約1600キロメートル探し回った」という男性の話を伝えていた。粉ミルクを買い求めるのに、青森から福岡までほどの距離を車で走ることを想像すると、尋常ではない状況だとご理解いただけるだろう。

粉ミルク不足の背景を調べると、アメリカ国内における“独占的”な粉ミルク市場の問題点が見えてきた。
  

■事の発端は最大手企業製品の“リコール” 欠品率は40%超え

粉ミルク不足の始まりは、アメリカ粉ミルク市場“最大手”アボット社の主力製品のリコールだ。
   
アボット本社 イリノイ州
ニュースメディア・ポリティコによると、アボット社のミシガン州にある工場で製造された粉ミルクを飲んだ4人の赤ちゃんがバクテリア感染し、そのうち2人が死亡したと、2021年10月にFDA=米食品医薬品局に内部告発されたという。

その後のFDAの調査を経て、2022年2月にアボット社の一部製品のリコールが決まり、ミシガン州の工場は一時閉鎖になった。我が家で使っていた粉ミルクもリコールの対象製品で、購入した薬局に返品しに行った。しかし、まさかここまで粉ミルク不足が深刻化するとは、その時は考えもしていなかった。

統計会社・データセンブリーの発表によると、全米の粉ミルクの欠品率は4月上旬に30%に跳ね上がり、5月8日時点で43%まで上昇している。2021年前半は2%〜8%で推移していたということで、この数か月で粉ミルクの供給が激減していることがうかがえる。1社の一部製品のリコールがなぜ、ここまで深刻な事態を招いたのか。
    

■軍用機で粉ミルク輸入… “独占市場”の弊害あらわに

アメリカの粉ミルク市場は、国内企業による独占状態で成り立っている。たった4社が市場全体の約90%のシェアを占めていて、なかでもアボット社は全体の40%超のシェアを誇る。

その背景にあるのは、輸入製品に課されるFDAによる厳しい審査や規制、高い関税だ。例えば、輸入製品には英語による原材料の表記の徹底などが求められている。そのため、アボット社製品のリコールをきっかけに国内製品が品薄になったからといって、すぐに輸入を拡大することはできなかった。
     
粉ミルクを軍用機で輸入 現地5月22日
アボット社製品のリコールが発表された3か月後の5月18日に、バイデン大統領はやっと「国防生産法」を発動。軍需物資調達が本来の目的である同法を発動してまで、粉ミルク製造に必要な原材料を優先して国内メーカーに供給することを求め、粉ミルクの増産を促した。

そして、ヨーロッパからの粉ミルクの緊急輸入を関係省庁に指示。特別待遇の粉ミルクが軍用機で輸入される光景は、独占市場による弊害の深刻さを浮き彫りにした。