伏せられた大阪入管常勤医師の酒酔い診療

名古屋入管に収容されていたスリランカ人女性、ウィシュマ・サンダマリさんの死を受けて、入管庁は、改善策を進めたとして、「常勤医確保により、被収容者に関する継続的な体調把握や相談が容易に」(入管庁資料「改善策の取組状況」23年4月)と自らを評価した。
入管法改正案を審議していた衆院法務委(23年4月19日)では、こんなやりとりがあった。
▽山下貴司議員(自民)
「私は、ウィシュマさんの悲劇を繰り返さないための法改正でなければならないと考えている。仮に当時、今回の法改正後の入管法が施行されていたとすれば、悲劇は防げていたと考えるか」
▽齋藤法相
「入管庁では、これまで、(ウィシュマさんの)調査報告書で示された改善策を中心に、組織、業務改革に取り組んできたところ、常勤医師の確保等の医療体制の強化や職員の意識改革の促進など、改革の効果が着実に表れてきていると思う」
ところが、5月30日、大阪入管に勤務する常勤医師の女性が、酒に酔った状態で収容者の外国人を診察していた疑いが浮上し、内部調査が行われていることが明らかになった。
弁護士や支援者によると、この女性医師は「酒酔い診療にとどまらず、患者に対する暴言や不適切な投薬」なども指摘され、今年2月には収容者6人が署名して解任を求める手紙を収容所内の目安箱(意見箱)に投函していたという。
女性医師が勤務したのは22年7月からで、入管庁資料「改善策の取組状況」では、大阪で常勤1名増と改善の成果として記載されている。

問題なのは、入管法改正案は今年3月7日に閣議決定されたが、女性医師からアルコールが検知されたのは1月、斉藤法相は2月下旬に報告を受けたとしている点だ。
改革の効果が着実に表れているどころか、「医療倫理に反する重大な危険行為」(支援者による大阪入管局長宛て抗議文)を伏せたまま、法案は提出され、衆議院を通過したことになる。
6月4日に会見したウィシュマさんの2人の妹は口々に「悲しい」「本当に残念」「姉のときと同じようなことが繰り返されている」と語った。
また遺族代理人の指宿昭一弁護士は「ウィシュマさんの事件を受けて入管の医療体制が改善されていなければ、法案は提出できなかったはず。与党の国会議員は、自分たちがだまされていたことに気づいて、この法案の審議を止めるべきだし、法案提出前から知っていながら隠していた法相の責任は重い」と述べた。
収容されたまま命を落とした人たちの無念さ、親子が引き裂かれた家族の悲しみ…。5日夜、国会正門前には、そんな思いが交錯し、採決反対の声が響いた。
審議すればするほど疑問は深まるが、合理的な説明はなく、事実とは異なる答弁も見られる。時間を費やしたからと言って議論を打ち切っていいはずはない。