なぜ、審議を打ち切り、採決を急ごうとするのか--。入管法改正案を政府が国会に提出するにあたり、大前提となっていたはずの「適正な難民認定」と「入管収容施設の改善」が根底から揺らいでいる。だが、出入国在留管理庁(入管庁)をただすはずの参議院法務委員会は、杉久武委員長(公明)が6月6日の採決を職権で決めた。まだ議論すべきことは尽きていない。
(取材:元TBSテレビ社会部長 神田和則)

難民審査参与員が示した「驚愕の理由」とは~難民は適正に認定されているのか?
「あなたの主張が真実でも、何ら難民となる事由は含まれていない」
これは、難民申請の2次審査を担当する難民審査参与員が、対面での審査はしないと本人に通知したときの理由だ。申し立てていたのは、同性愛者への迫害を逃れ、日本で保護を求めたウガンダ国籍の女性。3人の参与員は書面審査だけで、全員一致で不認定の判断を下した。
いまや性的マイノリティを処罰する法律がある国から逃れた人を、難民として保護するのは、国際的な常識だ。にもかかわらず、参与員は基本中の基本とも言うべきケースで「主張が真実でも難民ではない」と退けたのだった。
経緯を検証する。
女性は20年2月に来日、入管当局に対して「ウガンダで同性愛者を理由に警察に3カ月身体を拘束され、暴行で歩けないほどのけがをした。国には帰れない」と訴えた。しかし、上陸許可が出ず入管施設に収容された。
同年3月、難民認定を申請、入管庁による1次審査では、主張に合理性や信ぴょう性がないとして不認定となった。
女性はすぐに2次審査を申し立て、冒頭で触れたように対面審査を開いてほしいと求めた。この際、2カ月後に現地の医療記録や友人の証言を証拠として提出する旨も伝えていた。ただ入手が予定より遅れていたところ、何の問い合わせもないまま、突然、8月に不実施の通知書が届いた。
その理由を原文のまま引用する。
「申述書に記載された事実その他の申立人の主張に係る事実が真実であっても、何らの難民となる事由を包含していない」
つまり、女性が同性愛者として迫害を受けたという主張が、たとえ真実だとしても、難民には該当しないというのだ。
入管法改正案の国会審議に参考人として出席した全国難民弁護団連絡会議(全難連)代表の渡辺彰悟弁護士は「驚愕の理由が示されている。難民性の判断を参与員が専門的にできていなかったことがわかる」と批判した。
入管庁が公表した22年の審査期間は、平均で1次が約33.3カ月、2次が13.3カ月、これに対して女性の場合は1カ月と8カ月、「明らかに難民に該当しないことを書面で判断できる」「迅速な審理が可能かつ相当な事件」(入管庁の国会答弁より)と扱われて不認定にされたとしか思えない。