■戦力は3分の1に「逃走して再編成しないと使い物にならない」


実際、ロシアの戦況は悪化の一途を辿っているようだ。小泉氏はロシア軍の攻撃の仕方などから、戦力の厳しさを読み解いている。例えば次の3つがある。▼黒海艦隊が対艦ミサイルで地上攻撃をしている。これは巡航ミサイル不足でないかと小泉さんはみている。▼水上艦ではなく潜水艦から巡航ミサイルを撃っている。これは水上艦用のミサイルが不足しているからではないかという。▼また、徴兵制は任期一年で入れ替えのはずだが、実際には除隊できていない。これは兵士不足の表れではないかと指摘する。

東京大学先端科学技術研究所 小泉 悠 専任講師
「米国の国防総省はロシア軍が何発巡航ミサイルを撃ったかをブリーフィングの中で言っています、つまりアメリカは見ているぞということだが、2千数百発撃っているんです。ロシア軍は相当これまで巡航ミサイルを作っては貯めてきたわけですが、もうそれが3か月もする戦争で枯渇し始めている。例えば対艦ミサイルは敵の軍艦を撃つものだからこれは目的外使用だ。それから潜水艦から撃つのも同じような巡航ミサイルなのだが、出来れば潜水艦は位置を秘匿しておきたいので、水上艦から撃つのがセオリーだと思う。だけれども水上艦用の巡航ミサイルが足りなくなってきているのだろう」

しかし別の見方もできると元陸上自衛隊でソ連を仮想敵国として研究していたこともある渡部悦和氏だ。

元・陸上自衛隊東部方面総監 渡部悦和氏
「対艦ミサイルから地上攻撃をするというのは、黒海艦隊はウクライナの岸に近寄るとミサイルを撃たれて沈没する可能性もあるので、潜水艦を使った対地攻撃用のミサイルを撃っているという考え方もある。ただ、大きな流れとしては小泉さんが言われた通り、ロシアの兵器は厳しくなっている」

オランダの民間軍事サイト「Oryx」によると、ロシアは戦車や航空機などの兵器を3675という数で失っているという(16日時点)。この数字はウクライナの3.5倍だ。兵器の種類別でロシアの損害をウクライナと比較しても、航空機やヘリコプターは2.6倍。対空兵器は1.2倍。戦車は4.2倍。歩兵関連の兵器は3.4倍。そして兵站は14倍も損害に差が出ている。また、イギリスの国防省は、ロシア軍は投入した地上戦力の3分の1を失ったと分析している。戦力の3分の1を失うとどういう状況になるのか―。

元・陸上自衛隊東部方面総監 渡部悦和氏
「ロシア軍は厳しい状況だと言える。戦術の常識では、ひとつの部隊の存亡が30%になるとその部隊は使い物にならない。後ろに逃走して再編成しないと使い物にならない。3分の1というのは33%ですから、この時点でロシア軍をみるとかなり無理をしなければ作戦が出来ないような状態になっている。攻撃する側は5倍の戦力でなければならないと私は言っているのだが、これが出来ないような状況になっている。だから、ドンバス地域においてロシア軍の攻撃が進捗していない。これは明らかな原因がここにあると思う」