今週は「SDGsウィーク」。今回取り上げるのは「飢餓をゼロに」です。遺伝子や細胞レベルの技術で環境や動物への負荷を減らし食料不足も解決する、最先端の食の生産現場を取材しました。
世界三大珍味のひとつ、フォアグラ。フレンチに欠かせない食材ですが、将来、食べられなくなる可能性があるのです。
理由は作り方にあります。ガチョウの胃に大量のえさを流し込み、肝臓を肥大化させて作るフォアグラ。これが動物愛護の観点から問題になっているのです。こうした手法は各国で禁止されつつあり、ニューヨークでは提供を禁じる条例が可決しました。
こうしたなか、日本では画期的なフォアグラの生産方法が開発されました。
インテグリカルチャー 國政和宏 博士
「全体が肝臓由来細胞となっています」
フォアグラのもととなるアヒルの肝臓細胞。これを大量に増やしてできるのが、培養フォアグラです。
それを可能にしたのがこの装置。具体的な部分は企業秘密ですが、アヒルの体内を再現して大規模な培養を可能にしました。これは世界初の技術です。
今年2月には評価会も開かれました。すべて食品由来の成分ですが、現在、食べられるのは研究開発者に限られています。
「甘みと旨みの広がりが強かった」
インテグリカルチャー 國政和宏 博士
「脂質がまだほとんど含まれておりません。いかに脂質を増やしていくかが、研究開発のテーマ」
また、コストも課題です。現在、100グラムおよそ3万円ですが、3年後には300円程度まで安くしたい考えです。
細胞培養は食料不足の解消にもつながると期待されています。カップ麺で有名な日清食品と東京大学は、日本で初めて食べられる培養牛肉を作りました。
河野太郎 消費者担当大臣
「すげー」
視察に訪れた河野大臣も驚きを隠せません。
牛のゲップにはCO2より25倍以上温室効果のあるメタンガスが含まれていますが、培養肉ではガスが出ないため地球環境に優しいのです。
一方、細胞培養とは違う方法で課題解決に乗り出したのが、京都大学発のベンチャー。
リージョナルフィッシュ 木下政人CTO
「これがゲノム編集っていう操作をして、お肉がいっぱいつくようになったマダイです」
飼育しているのはゲノム編集したマダイです。下が普通のマダイ、上がゲノム編集したマダイ。上の方がまるまる太っています。肉の厚みをみると…その差は歴然。通常より平均で1.2倍、最大1.6倍もマッチョなタイが生み出されるのです。
「ゲノム編集」とはどのような技術なのでしょうか。
まず、受精卵に狙った遺伝子を切断する酵素を注入します。酵素がハサミの役割を果たし、成長を抑える遺伝子を切り取ることでぐんぐん成長します。一方、「遺伝子組み換え」は別の生物の遺伝情報を入れ、新しい性質をもたせるまったく違う技術です。
ゲノム編集マダイで作った鯛めしに、刺身の昆布じめ。気になるマッチョなタイの味は…
記者
「しっとりした身のつくりになっています。普段食べてるタイよりもしっかりした食感。うまみもしっかり感じられます」
リージョナルフィッシュ 木下政人CTO
「マダイの一部の遺伝子が少し変わることは自然でも起きていることで、全然危険なことではない。1匹からたくさんのお肉が取れたら人の手間も少なくなり、廃棄する部分も少なくなる。餌を少なくして飼うことができる。そういう意味でも海を汚さない。資源を有効に使うという意味で、いいマダイになっています」
一方、「ゲノム編集」技術を使い、CO2を減らす新たな試みも…
京大ベンチャーが組んだのはNTTです。データセンターでは電力を大量に消費しますが、その過程で出るCO2を減らすことが世界的な課題となっています。そこで目を付けたのがゲノム編集です。
NTT宇宙環境エネルギー研究所 今村壮輔 特別研究員
「藻類を培養した培養液になります」
水の中にいる藻は植物と同じく、光合成でCO2を吸収します。「ゲノム編集」を使ってCO2をより多く吸収する藻の開発に着手したのです。
さらに…
NTT宇宙環境エネルギー研究所 今村壮輔 特別研究員
「この藻類を魚介類の餌として活用していきたい」
CO2を吸収した藻をマッチョなマダイのえさにして、将来的にはCO2排出実質ゼロを目指します。
遺伝子や細胞レベルの技術は食料不足や環境問題の解決にも欠かせないものとなりそうです。
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