「障害者は介護者と二人で一人ではない。一人の人間として扱って欲しい」

4月初め、取材場所に指定された喫茶店に向かうと、男性がすでにカウンターの席に座っていた。傍らには杖が立てかけてあり、左足には補装具が装着されていた。

挨拶を済まし、私が『テーブル席に移動しましょう』と言い、手を差し出すと男性は言った。

男性
「大丈夫です。一人で移動します」
記者
「じゃあ、リュックサックは私が持ちますね」
男性
「ありがとうございます」

男性は一人で喫茶店にやってきていた。つまり一人で行動ができるのだ。

山口健志さん(37)。31歳の時に脳出血を起こし、以来左半身麻痺の生活を送っている。
現在、コンピュータ関係の仕事をしつつ、「相馬杜宇」の名で劇作家としても活動している。

山口さんの障害者手帳

障害者手帳には旅客運賃減額第一種とある。つまり、多くの公共交通機関では割引が適用される。
障害の等級は1級。1級は介助を受けなければ日常生活のことがほとんどできない状態である等級だが、厳しいリハビリの末、山口さんは一人でも行動ができるようになった。
山口さんは普段、電車での移動は一人だ。山口さんも私と同じように、障害者の単独利用でも割引が適用されると思っていた。ただ、電車を利用する度に障害者手帳を提示することに心理的な抵抗があったので一般の交通系ICカードを使い、普通運賃を支払ってきた。

そんな中、障害者用ICカードのサービス開始を知り、今までと同じ利用方法で割引になるならと思い、一人で購入に向かった。ところが、駅員から「障害者用ICカードのみの購入はできない」「障害者一人での利用はできない」と言われたのだ。

山口さん
「駅員にダメなものはダメ!と高圧的に言われたのが悲しかったんです」

ここで、事前の取材で知った、介護者の同伴が条件となっていて障害者が単独で鉄道を利用する際には障害者割引の対象外になるという、謎のルールの存在を山口さんに伝えた。

山口さん
「え!?そうなんですか・・・」

少し驚いた山口さんは、考え込んだ後、こう言葉を紡いだ。

山口さん
「1級の身体障害者であっても車椅子で自力で生活している方もいる。障害者だからといって十把一絡げで判断されるのは心外です。障害者は介護者としか行動ができない。二人で一人という決まりきったイメージではなく、一人の人間として扱うべきではないでしょうか
「障害者によっても様々な考え方があり、普通運賃でも構わないという意見もあると思う。私はただ選択肢を増やして欲しいだけなんです」