暴力を振るう母親から逃れるため“トー横”にやってきた少女

私たちは一人の少女と出会った。16歳のAさん。
暴力を振るう母親から逃れるため、“トー横”にやってきた。
Aさん
「包丁で刺されたりとか、首を締められたりとか、『生きている価値ないから死んで』みたいな、そういうのをめっちゃされてて嫌になって出てきました」
「虐待とかの話って通じないじゃないですか。みんなに言っても『え?』ってなるじゃないですか」
「ここだと引かれないし、逆に共感されるんで。要は、同じ境遇の子と一緒にいたいって感じですね」
Aさんが家を出たのは、中学を卒業した2022年3月。
その後、幾度となく保護施設に送られたが、脱走を繰り返しているという。
―今日はこの後どうする?
「この後は野宿します」
―ここで?
「その辺で」
―危なくない?
「お金ないんで」
―風呂はどうしている?
「『案件』でラブホ行くじゃないですか。その時に『先にお風呂入っていいですか?』って言ってお風呂に入ったりしています」
案件とは、売春のことだ。
―自分が嫌にならない?
「いや、ありますね。やっぱ…そういうことをするとき、おじさんじゃないですか。相手って。だから結構、精神的にはきついですけど、でもやらないと生きていけないし…みたいな葛藤はあります」
腕には、無数の「傷」が刻まれていた。

Aさん
「いつも『死にたい』と思ってるから切ると(血が出るから)『今日もちゃんと生きていたんだ、偉い』と思って」
―将来、どうする?
「将来ネイリストとかになりたいんですよ。美容系に行きたくて。やり方的には犯罪ですけど。案件とかでお金を貯めて、そしたら専門学校行って、ネイリストになってちゃんと働こうかなとか思っています」
“トー横”とよく似た場所 “グリ下”と呼ばれるエリア

大阪・道頓堀に、“トー横”とよく似た場所がある。
観光名所「グリコ看板」の下、“グリ下”と呼ばれるエリアだ。
若者
「もうええやん、ただ単に困っている子がいるから集まってる、それだけでええやん、もうグリ下に関わらんとってほしい、大人、しょーみ」
若者たちは「大人への不信感」を露わにした。

―“グリ下”ってどういう場所?
「ほんまになんやろ、一個の居場所。ほんまに居場所。ここを奪われると正直困ります。仲良くなった子もいるし。ここに集まるのが間違いなのは、分かっているんですよ、みんな。でも、集まれる場所がここにしかない」
―全員の顔と名前は分かる?
「分かる子もいるし、新しく来た子とかもいるから、分からない人もいる」
―でも、何となくみんなは繋がっている?
「そうじゃない?」
緩やかに、それでいて、確かに、繋がっている。そんな実感を求めて、彼らは“グリ下”にやってくる。

2023年3月、“グリ下”に「大きな変化」があった。
警察と地元の企業などが、橋の下に2台の防犯カメラを設置した。
大阪府南警察署・前田時彦署長(当時)
「地域の皆さんと協力をして、子供たちをしっかり見守って、安全で安心な街ミナミを築いていきたい」
だが防犯カメラの設置以降、若者たちはこの場所に寄り付かなくなった。
記者
「カメラを設置し始めてから何日か経ったが、若者の姿が以前より減ったという印象を受ける。別の場所に行ったという気もするが」
大阪府南警察署・前田時彦署長(当時)
「おっしゃる通りだと思うのですけど…どこに行っても子どもたちを守るということで、継続して対策を取っていきたい」

大阪を拠点に、若者の生活支援などを行っているNPO。
週に一度、“グリ下”周辺でフリーカフェを開設し、少年少女らの相談に乗っている。
理事長を務める今井紀明さんは、防犯カメラを設置したことに疑問を呈した。
今井紀明さん
「別の居場所があったりとか、人のつながりがあったりとか、いろいろな職業の人と出会う場があればいいんですけど、それを用意しないまま、社会的に場所を閉じてしまう。もしくは入り込ませないようにしてしまう、ある種、浄化させてしまうというのは危険な方向に結びついてしまうのではないか」
虐待を受けて育った、ある男子高校生の言葉が忘れられないという。
今井紀明さん
「『暴力を受ける環境から逃れて、やっと人に甘えられるようになった』と。何が必要かというと、それは安心できる居場所。これがあってこそ、しかも、これが長くあってこそ、次のステップに行けるんですね。無かったら、子どもの時とか、0歳の時から無いんだったら、それは長い期間がかかるので、これを何年も用意していくことがぼくは必要だと思っています」

















