警察担当記者として寝屋川事件を取材

私、法花直毅はMBS報道情報局の記者として、大阪府警記者クラブに所属し、キャップを務めている。少年事件を含め、主に大阪府警管内で日々事件事故の取材・報道にあたっている。今回は改めて「匿名」と「実名」、その線引きがどこにあるのか考えさせられる取材だった。

約2か月前の3月1日深夜、大阪府寝屋川市の路上で20歳の男性が襲われ、亡くなった。通報時刻は午後11時54分、男性の背中には刺し傷があり、警察は殺人事件として捜査。MBSも3月2日未明から記者とカメラマンが現場に直行、取材を始めた。
警察、周辺住民への取材を通して事件の概要が徐々に分かってきた。まず、現場から数人が逃走し、警察が犯行に関わった容疑者として捜査していること。そして被害者の男性は車を使って現場を訪れ、その後、襲われたとみられることが判明した。

大きな事件が起きると記者は地元住民に地道に聞きこむ「地回り(地取りとも言う)」をして事件の真実に近づこうと努力する。その中で、複数の住民が「夜中に若者が言い争うような声を聞いた」と証言した一方で「ここは若者がたむろするような場所ではなく、なぜこんなことが」などと異口同音に話した。

また、被害者についても取材した結果、亡くなったのは20歳の専門学校生で、知人や後輩からは「優しい人で恨まれる人ではない、悪く言う人はいない」との話が聞かれた。被害者の顔写真も確認したが、知人らが話した印象を裏付けるように笑顔の写真だった。

その後も取材を重ねたが被害者に目立った事件前のトラブルの話しは出てこず、逃げた容疑者らも数日経っても見つからなかった。捜査関係者からも「被害者周辺からはトラブルはない」という情報があり、事件の全容は見えないままだった。

しかし、事件から約1週間後の3月7日、男3人が犯行に関わったとして逮捕された。警察から発表された内訳は、3人のうち1人は20歳の男、あとの2人は18歳と19歳の「少年」だった。また翌日には21歳の女も逮捕された。警察によると、4人は強盗目的で被害者の男性を襲って刃物で刺し、その後、車で逃走したのだという。スマートフォンの履歴などから被害者は大麻の密売に関わっていたとみられ、4人は金品を奪えると考えたようだ。男3人が実行役、女が運転手役で、被害者と容疑者4人に面識はなく、4人がSNSを通して取引を持ち掛けたとみられている。警察の取り調べに対して20歳の男以外、18歳19歳の男2人は黙秘、女は否認する中、役割分担など詳細は判然としなかった。