これほど急激に金融引き締めを行って大丈夫だろうか、と不安を感じざるを得ない決定でした。アメリカの中央銀行であるFRBは、4日、政策金利を通常の倍にあたる0.5%引き上げると共に、6月からいわゆる量的引き締め(保有資産の縮小)も実施することを決めました。利上げ自体は前回、3月の会合に続くものですが、利上げ幅0.5%というのは、2000年以来、なんと22年ぶりのことです。前回の0.5%利上げは、インターネットサービス企業が次々登場したITバブル(ドットコムバブル)のピークの頃で、コロナや戦争が目の前にある今とは、随分、風景が異なります。それでもパウエル議長は、今後、6月と7月の会合でも0.5%の利上げを続ける考えを表明しました。
一方、量的引き締めも、9月には保有資産削減額を上限の月額950億ドルにまで拡大するという急ピッチなもので、前回の正常化局面での削減額の月額500億ドルと比べるとほぼ倍の規模です。量的引き締めは金融市場からの資金の引き上げですから、長期金利の上昇に一段と圧力がかかります。要するに今回は、「金利」も「量」も、いずれも「倍速」ペースで急激に引き締めが進むのです。
ここまで急激な引き締めを行うのは、3月の消費者物価が前年比で8.5%に達するほどのインフレになってしまったからですが、金利の急激な上昇は、景気の腰折れを招きかねません。アメリカでは企業だけでなく消費者も多くの債務を抱えており、半年で2%以上もの金利上昇は急激なコスト増につながります。とりわけ借り入れに頼る新興企業や住宅市場への影響は避けられません。
金利の上昇が株式市場に与えるインパクトも無視できません。利上げ当日は、「パウエル議長が0.75%利上げを否定した」と言う理由だけでダウ平均株価は急騰しましたが、翌5日には1000ドル以上と、上げた分以上に値を下げてしまいました。家計の貯蓄手段として株式投資が普通に行われているアメリカで、株価が急落すれば、そうでなくてもインフレの影響を受けている「選択的消費」を大きく抑制します。もちろんそうした需要の抑制こそが利上げの大きな目的なのですが、スピードが速すぎると問題でしょう。
さらに心配なのが世界経済への影響です。今月も、例えばオーストラリアが10年半ぶりに利上げ(0.1%→0.35%)に踏み切りました。資源国のオーストラリアでさえ、これまで見られなかったような物価上昇の抑え込みにかかっています。インドやブラジルと言った新興国はすでに続々と利上げを進めています。アメリカの金利上昇は、ドル高を通じて、どの国にとっても輸入物価の高騰と、ドル建て債務の実質的な負担増につながるので、各国とも自国通貨の防衛に躍起なのです。世界を見渡せば、ウクライナに近いヨーロッパ経済の下押しリスクや、中国経済の失速懸念など、実はアメリカ以外は先行き不安がいっぱいの状態で、アメリカ経済が崩れると世界経済は持ちません。
FRBのパウエル議長は、物価を抑えながら景気を維持するという「ソフトランディング(軟着陸)は可能だ」と言って見せましたが、過去を振り返れば、急激な引き締めの後で景気後退を招かなかった例は、あまりありません。22年前の0.5%利上げの時も、その後ほどなくして、ITバブル崩壊となりました。「インフレは一時的」と判断を誤り、物価上昇を軽視した、そのツケは大きくなるかもしれません。
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