再審開始、そして捜査機関による“証拠ねつ造”の疑い

そして、2023年3月13日、東京高裁が下した判断は―

東京高裁は、5年前の自らの判断を覆し、再審開始を決めた。

「1年以上みそ漬けされた衣類の血痕の赤みが消えることは、専門的知見によって合理的に推測できる」として、弁護側の主張を全面的に支持した。

さらに、東京高裁は、袴田さんの逮捕後に第三者が「5点の衣類」をみそタンクに入れた可能性があると言及。

東京高裁の決定文より
「第三者は捜査機関の者である可能性が極めて高いと思われる」

捜査機関による証拠ねつ造の疑いにまで踏み込んだ。

姉・袴田ひで子さん
「ただ、嬉しい。ただ、嬉しい。ただ、嬉しい。私は56年間戦ってきているんですよ。この日が来るのを本当に心待ちにしておりました。これでやっと肩の荷がおりたという感じ」

再審開始決定の翌日―

姉・ひで子さんは弟に今回の決定を伝えた。

袴田ひで子さん
「東京高等裁判所から『袴田巖様』って通知が来たの。主文、理由、検察庁が即時抗告したのを棄却。だから、再審開始になった。だからもう何にも心配いらんだよ。安心しな」

元被告人と元裁判官、50年ぶりの再開

同じ日、再審開始の決定を特別な思いで受け止めた人が福岡にいた。島内和子さん(82)。死刑判決の真相を告白した元裁判官・熊本典道さんのパートナーだ。熊本さんは2020年に亡くなっている。

熊本元裁判官のパートナー 島内和子さん
「良かったねー。再審ができますよ。一番の願いだったからね」

熊本さんが亡くなる2年前、袴田さんは病室を訪れ、50年ぶりの再会を果たしていた。元裁判官は、振り絞るように元被告人の名前を呼んだ。

元静岡地裁・裁判官 故・熊本典道さん
「イワオー…」

熊本さんは、袴田さんに出した死刑判決を後悔しつづけていた。