2022年、あるイタリア人の男性が東京入管の収容施設で自ら命を絶ちました。その男性は収容前、ホームレスとして暮らしていました。男性の死後、記者は男性が生前、動画投稿サイトに残していた複数の動画をもとに取材を始めました。今、ホームレスになる外国人が急増しているといいます。背景に一体何があるのでしょうか?

「助けて」「お金を送って」イタリア人男性 なぜ河川敷に?

ルカさん
「こんにちは。東京福生市です。ホームレスになって、2年と2週間…」

Tシャツ姿でカメラに語りかける男性。イタリア人のルカさん(56)だ。

雪が降る中、多摩川の河川敷で、境遇を嘆く動画も…

ルカさん
「5メートル四方のビニールシートの上で寝ています…」

携帯は支援を受けるための命綱。ルカさんは、生活の様子を撮影し、「助けて」「お金を送ってほしい」という言葉とともに、動画投稿サイトに載せていた。

近隣住民 
「(この方みたことある?)そこの橋の下にいた。2年くらいいたんじゃないかな」

ランニングで通う男性
「段ボールとかあって、なんとなく生活している人がいるのかなって」

ルカさんは、イタリア中部・ペルージャ出身のグラフィック・デザイナーだった。

イタリアにいる27年来の友人だという女性が取材に応じた。

アナリザ・ロジィ・カッペラーニさん
「ルカはイタリアでグラフィックデザイナーをしていました。会社や店舗のロゴを作ったり、看板を作ったり、そういう仕事をしていました。また、優秀なカメラマンでもありました。冗談をよく言う人で、同時に深い話もできるような友人でした」

ルカさんは、アジアでの生活に憧れ、2005年、日本に渡ったという。来日後、日本での生活を楽しそうに話していた。

カッペラーニさん
「彼は日本に行ってから、いくつか、写真の賞をとったこともありました。ときどき電話があり、日本での暮らしについて語ってくれました。結婚をしたという話もしてくれました」

2008年、日本人の女性と結婚し、福生市内のアパートで暮らしはじめたルカさん。ところが10年ほど経った2018年、心療内科を受診することになる。

ルカさんがネットに載せた診断書には、「妄想性パーソナリティ障害の疑い」と書かれていた。診察した医師はイタリア語に堪能で、イタリア大使館に頼まれ彼を診たという。

医師
「こぎれいで立派な紳士。(話してみると)執着、ある一つのことになると、とうとうと持論を述べられる。その根拠が間違っているので、妄想とかに基づいて、猜疑などがひどくなっている状態。英語とイタリア語だけで日本で十数年暮らす中で、コミュニケーションの問題とか、そういうところの 色々な矛盾が積み重なり、日本で生活が成り立たない状態だったんじゃないか」

医師が6時間にわたって話を聞くと、ルカさんは「イタリアに身寄りもなく帰れない」と話した。また「自分は亡命してきた」と口にするなど、様々な妄想があることが分かった。

医師は治療を勧めたが、ルカさんが再び訪れることはなかった。近所の人によると、この頃から、妻の姿もアパートから見えなくなったという。そして、2020年頃、ルカさんは在留資格を失ったという。