ゴキブリなど害虫に不快な感情を持っている人は多いだろう。そんな虫たちから私たちの生活を守ってくれるのが虫ケア用品メーカーだ。「ごきぶりホイホイ」で知られるアース製薬は商品開発のために日々虫たちと対峙している。しかし、虫に関わる同社の研究開発部員たちは、不快とは異なるある思いが徐々に湧き上がってくるという。取材を進めると、驚きの光景が…。社員たちは、ゴキブリ、ハエ、蚊、ダニの写真に手を合わせ、首を垂れていた。
商品の礎となった虫たちへ 虫ケア用品メーカー 感謝の「虫供養」

兵庫県赤穂市にある妙道寺。冷たい空気が肌に冷たく刺さる冬の夕暮れ、ある法要のために続々と人がやってきた。読経が響き渡る厳かな雰囲気のなか、参列者は焼香をして静かに手を合わせている。その目線の先にあるものは・・・なんと「ゴキブリ」の遺影だ。


ゴキブリのほかにマダニやハエ、蚊の遺影まである。人間さながらの手厚い法要だ。アース製薬の研究所では商品の効果を調べるためにたくさんの虫を飼育しており、1年間で最も多いときで『ゴキブリ100万匹』『蚊5万匹』『ハエ5万匹』『ダニ1億匹』…にもなるそうだ。同社はそんな商品開発の礎となってくれた虫たちへ鎮魂と感謝の気持ちを込めて毎年行っているという。
“ごめんなさい”ではない「虫さんありがとう」という気持ち

入社してから毎年かかさず参列している同社研究開発本部 研究部部長の川口美香子さんに話を聞いた。
ーー初めて参列したときはどう思いましたか?
アース製薬研究開発本部 研究部 川口美香子部長
「入社1年目に会社の人たちから“虫供養”に行くよ。と言われて『なになに?虫供養って?』と思いました。皆がぞろぞろとお寺に行くので、それはもう行かなければという感じでついていきました」
ーーきちんと遺影も飾られるんですね
アース製薬 川口美香子部長
「本堂に入ったら、蚊やゴキブリの遺影が飾られていて驚きました。『何これ?こんなことするの?』って戸惑いましたね。人間の法要と全く変わらなくて、お焼香の順番が回ってきたとき、何回したらいいのかわからなくて先輩社員の見よう見まねでやりました」
初めて参列する人は一様に驚くらしい。しかし研究所で働く人は毎年ほぼ全員、参列するそうだ。実は、「弔わずにいられなくなる」のだという。

アース製薬 川口美香子部長
「本来ならば犠牲になるべきではないかもしれない虫を使って試験をして商品開発をさせていただいている。ゆえに我々の会社が成り立っているし、人間の快適な生活環境が守られていく。それを意識すると法要に行かされるというより、ちゃんと自分から行こうとなる。きちんと弔わずにはいられないという気持ちが年々大きくなっていきます。『ごめんなさい』というよりは『ありがとう』と心の中で言っています。」