「今は地球人同士が戦争している場合じゃない」だからこそ「描かざるをえない」
「死ぬために生まれてくる命はない」父親の口癖は、そのまま松本さんが漫画を通して伝えるテーマとなった。「志を遂げるために人は生き、人の目的を蔑んだり邪魔せず、助け合わなければならない」を前提に描き続けたという。
戦いを否定しながらも、戦いを描きつづけた松本さん。そんな一見すると相反する“信念の衝突”は、戦争で命を失っていった若者、そして、争いが未だに続く現在に根差していた。

ーー松本さんの作品には、若者たちが命を落としていくことに対する口惜しさのような描写が多くありますね。
若者が死ぬのは無念の思いがあるわけです。志を持って生まれてきたのに、それを果たせずに終わっていく悲しみですね。人は死ぬために生まれてきたわけではない。力の限り頑張って、いつの日にか自分の思いを成し遂げる。信念のために生きるんだという思いがある。
999というのは未完成という意味ですからね。1000が女王で。999という数字にこだわるのは未完成という意味。青春です。自分の青春はどんなに大事なものかと。
ーーそういう経験をした人が少なくなっていくと、どうなっていくんでしょうか?
空想科学の世界になる。SFになってしまう。若いうちに死ぬのはどんなに無念か。それが分かるから、争っている場合じゃないというのが自分の信念になる。しかし争いは止めることができない。永遠と。永久に続くと思う。でも、争っている場合じゃない。
意見が違う場合、戦いになる世界がまだつづいていますよね。今は地球人同士が戦争している場合じゃないですから。温暖化とかいろんな問題があります。そういう時代に戦争なんかやっていたら滅びるだけです。どうやって地球の自然環境と生命を守るかが大事なことなので。争っている場合じゃないという気があるわけです。
でも、戦いは現実に起こったし、大勢が死んでいるわけです。それを描くときは、正直言うと、悲惨で悲しいわけです。
ーー戦いを描くのはつらいことですか?
つらいです。本当は争わないほうがいいというのが前提にある。自分の心の中には。
ーーつらいけど描くのはなぜですか?
(戦いは)起こってしまう。だから、描かざるを得ない。