「死ぬな」沖田艦長のセリフに込められた戦いの漫画を描く理由
松本さんは「戦争体験があるからこそ、戦いの漫画を描かなくてはいけない」と語る。しかし、少年時代に培った飛行機マニア、メカマニアの側面だけを活かして、戦いを楽しく描くわけにはいかなかったという。なぜなら、戦いとは、悲惨なこと、命に関わることなのだということがずっと念頭にあるからだった。
その礎となった1人が、松本さんの父・強さんだった。強さんは戦闘機のパイロットだった。南方での戦いから帰国したのは敗戦の2年半後。攻撃する側の複雑な心境を話してくれたという。

ーー戦争について、お父さんからどんな話を?
「アメリカ兵だって、死んだら故郷で悲しむ子どもや家族がいる」と親父に聞きましてね。自分が相手を追い詰めたときに、相手のパイロットが振り返る。あいつが死ねば悲しむ子どもや家族がいると思うが、鬼になって撃たなければいけない。だから戦争は人間を鬼にするんだ、二度とやってはいかんという。
私はチビだからピンとこないから、「今度やるときは、やっつけないといかん」と言うと、「バカなことを言うな。そんなことを言うからあんなに大勢の戦死者が出るんじゃ」と怒られたことがある。
(親父は)戦闘隊長だったもので、部下を大勢失っている。親父はベテランだから空中戦では勝つが、新人はやられる。「あなたは生きて帰られて、なぜ息子を連れて帰ってくれなかったのか」といわれて、父親が「すまん」と謝る。それをこの目で実際に見てきた。
ーー松本さんの漫画では、パイロット、兵士、戦士の心情がとてもリアルに描かれていますが、お父さんから聞いた話がベースにあるのでしょうか?
父親の話も基本にあるが、あらゆる人から聞いている。帰ってこれなかった家族の苦難の現実をこの目で分かっているわけです。あらゆる負けるという、戦いの後遺症を見ているからその衝撃が強いんですよ。
ですから、どんな戦争漫画を描いても、後ろには人生とか、人は生きるために生まれてきたのに、なぜ死ぬのかという思いが、少年の日からずっとあったんです。
ーー「宇宙戦艦ヤマト」にでてくる沖田艦長は、父親の強さんをモデルにしたそうですね。部下に繰り返し「死ぬな」と話すシーンが印象的です。
沖田艦長、あれは実は私の親父の顔をそっくり使っている。あんな顔していた。ひげ生やして。『人は生きるために生まれてくる。死ぬために生まれてくる命はないぞ』それが(父の)口癖だった。そういう教育を激しく受けたので、あそこで(「死ぬな」と)使った