21年9月、難民不認定を通知された翌朝、不服申し立ての裁判を起こす時間も与えられずに強制送還されたスリランカ人男性2人が国を訴えた裁判で、東京高裁は「裁判を受ける権利を侵害し憲法違反」との判決を言い渡し確定した。

入管法改正で3回以上の難民申請者が強制送還されてしまえば、裁判を受ける権利どころか、その前段階である難民審査を求める機会すら奪われる。判決は、改正案にNOを突きつけたと受け止められた。

入管庁は巻き返しを図る。

ロシアの軍事侵攻が始まると、ウクライナから避難した人たちを救うためにも法改正が必要だと言い出した。旧法案には紛争から逃れた人を難民に準じて保護する「補完的保護」の規定があったからだ。これには「ウクライナの人たちを口実にして改正案全体を通そうとする火事場泥棒だ」と批判の声が上がった。

というのもUNHCRの「国際的保護に関するガイドライン」では、戦争避難者も難民と認定され得る。人道配慮による在留特別許可も含めれば、いまの法律で対処は可能だ。現実にウクライナからの避難者は手厚く保護されている。

国際人権基準に沿って難民保護を目的とした独立組織を

悲惨な「餓死」が、なぜ難民申請者の強制送還を可能にする法改正に至るのか。この4年間を追うと、国内外から多くの疑問、矛盾が指摘されたが、合理的な説明はできないのだと思う。しかし法案再提出の地ならしは進められ、昨年12月に閣議決定された「『世界一安全な日本』創造戦略2022」には「送還停止規定」の見直しが盛り込まれた。

日本は、今年12月にジュネーブで開かれる「第2回グローバル難民フォーラム」の共同議長国を務める。この会議は18年に国連総会で採択された難民保護の取り決め「グローバル・コンパクト」を基盤としていて、難民を迫害の危険がある国に送還してはならないという「ノン・ルフールマン原則」を中心に据えているのだが、「保護」「共生」とは真逆になる「排除」を掲げた法改正を進める議長国とは、一体、何なのだろうか。

法務省の「難民審査参与員」を務めた明治学院大の阿部浩己教授(国際人権法)は、「国際的な人権法の考え方は、人である以上、最低限の権利は保障するというもの。しかし日本では在留資格がない人は、人として扱われていないから多くの問題が起きる」と警鐘を鳴らす。そのうえで「国境を管理する組織である入管庁とは切り離し、国際的な人権基準を守り、難民保護を目的とした独立機関を設けない限り、根本的な解決にはならない」と強調する。

改正すべきは、組織のあり方だ。