世界遺産登録でブームの知床に「船を知る人間なら使わない」

 世界遺産登録によって増える知床の観光客。このブームに乗って同じ年、運航会社の知床遊覧船が購入した船が「KAZU Ⅰ」でした。

知床に出没するクマの写真を撮る人たち

 岡山県時代の「KAZU Ⅰ」を知る田口豊作さん。エンジンのメンテナンスを担当していました。

田口鉄工所 田口豊作さん
「基本的に船がわかっている人間だったら、そんな船は向こうでは使わない。(KAZU Ⅰの)船体の構造も、波のある所の船はV線形っていって、前にどんと突っ込んでも波が左右に当たって、どんと浮けないような構造になっているんだけど、(KAZU Ⅰは)そういう船ではない」

 船には、浸水の拡大を防ぐため「隔壁」と呼ばれる仕切り壁がありますが、「KAZU Ⅰ」の隔壁の穴は、知床でも、空いていたままだったのではないか。田口さんは、そう話します。

KAZUⅠは隔壁に穴が空いたままだったのではないかと指摘する人も

田口鉄工所 田口豊作さん
「隔壁が、昔は作業用のマンホールって穴を開けて、僕も造船所上がりですから。そういう作業用の穴は、通常はボルトなんかで、ピチっと蓋してるんですけど、取りっぱなしのような状態の船だったんでね。隔壁全部きちっとエンジンだけ仕切ってしまっているような構造ではなかった」

 去年12月の国の運輸安全委員会の報告書に、こんな一文があります。

報告書
「船首区画の隔壁に開口部がなく水密が保たれるものと仮定して計算したところ、(中略)十分に沈没を避けることができる」

 もし、密閉が保たれていれば、沈没は避けることができたと指摘しています。

 事故原因を調べている国の運輸安全委員会は、海水が流れ込んだハッチがきちんと閉まっているか、瀬戸内海時代から開いていた船体内部を仕切る隔壁が密閉されていれば、沈没しなかったと結論づけています。
 そして、事故の3日前には、国を代行するJCIの船舶検査も行われていましたが、事故の芽を摘むことはできませんでした。

「エンジンを隔壁で仕切る船ではなかった」と語る田口さん